今年の行政書士試験から一般知識が「基礎知識」として新しくなります。
これは受験生にとってみたらプラス要因でしかないと私は思うのですが、いかがでしょうか。
戸籍法の学習のモチベーションになるような話を書いてみようかと思います。
令和6年度から基礎知識が出題されるようになる
本年度の令和6年から試験範囲が若干変わることになりました。
従前の「一般知識」が「基礎知識」になったとのことで、具体的にどういった出題がされるかは蓋を開けてみなければわからないところです。
ただ、この手の国家試験の試験範囲変更というのは初年度は出題者サイドも凝ったものは出してこないことが多いので恐れることなかれ。
改正の趣旨ですが、私は次のように考えています。
まず、おそらく全ての士業の中で業際に最も詳しいのは行政書士です。
理由は行政書士法上の業務が行政控除説をそのまま採用しているので、全ての士業の独占業務を理解せねばなりません。
要するに業際が完璧でないと怖くて仕事ができません。
その出発点として行政書士法を勉強するというのは非常に有用です。
次に、戸籍法や住基法といった分野は日常的に取り扱うことが多いうえ、職務上請求としても極めて重要になる分野です。
本年度以降の受験生がラッキーなのは、今回の改正に関するものは実務に直結する法令なんですよね。
個人情報保護法なども含め基礎知識として出題可能性のある諸法令に精通しておいて全く損はないでしょう。
基礎知識は何が出題されるのか?
本気で合格を考えている受験生の皆様方は当然内容を把握していることだと思います。
蛇足にはなりますが、経緯などを掲載していきます。
行政手続法の意見公募手続の学習としても良い題材ですね。
なお、令和6年5月30日の執筆時現在の話で、来年度以降どうなるかはその都度ご確認ください。
意見募集(令和5年6月26日)
「行政書士試験の施行に関する定め」の改正に関する意見募集(令和5年6月26日)
別紙1「行政書士試験の施行に関する定め」の改正案(新旧対照表)
別紙2「『行政書士試験の施行に関する定め』の一部改正について 概要」
現行「第二 試験科目」のうち「行政書士の業務に関連する一般知識等」を「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」と改め、当該基礎知識に含まれる範囲について、現行試験において「一般知識等」の範囲内で出題しうるとしていた行政書士法、戸籍法、住民基本台帳法等行政書士の業務に必要な諸法令を「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」とし、「一般知識」、「情報通信・個人情報保護」及び「文章理解」とともにそれぞれの分野から一題以上出題することを規定する。併せて現行規定の「一般知識等」の括弧内に列挙していた「政治・経済・社会」を削除し、今後は、改正後の「一般知識」の分野において出題しうるものと整理する。
別紙3「意見公募要領」
公募結果・告示(令和5年9月28日)
「行政書士試験の施行に関する定め」の改正に関する意見募集の結果(令和5年9月28日)
「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について(日行連HP)
総務省告示第355号(行政書士試験研究センターHP)
第二 試験科目
[一 略]
二 行政書士の業務に関し必要な基礎知識(一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護及び文章理解の中からそれぞれ出題することとし、法令については、試験を実施する日の属する年度の四月一日現在施行されている法令に関して出題するものとする。)
第三 試験の方法
[一 略]
二 試験問題については、行政書士の業務に関し必要な法令等から四十六題、行政書士の業務に関し必要な基礎知識から十四題を出題する。
三 出題の形式については、行政書士の業務に関し必要な法令等は択一式及び記述式とし、行政書士の業務に関し必要な基礎知識は択一式とする。
戸籍法は実務で活きる知識である
学習のモチベーションのため、どのように実務で活きているかをご紹介しましょう。
まず、戸籍を取得するにあたっては「本籍」と「筆頭者(戸主)」を特定する必要があります。
この2つを「ファイル名」として管理していると思うとわかりやすいです。
例えば、夫:山田太郎、妻:花子、子:花太郎は次のようにこの「ファイル」の中で管理されています。
本籍+筆頭者(戸主)はファイル名
本籍 東京都新宿区東町三丁目4番地
氏名 山田太郎
→ここまでが「ファイル名」
↓以後は該当するファイルが管理する名簿
(夫)
【名】太郎
【配偶者区分】夫
(妻)
【名】花子
【配偶者区分】妻
(子)
【名】花太郎
【続柄】長男
例えば行政書士として相続事件を扱うのであれば、ある方の戸籍を取得していく事になります。
戸籍というのは様々な理由からその都度作り直される仕組みで、ある方の戸籍を全て取得すると数種類というのも珍しくありません。
例えば、戸籍法の改正、転籍、婚姻、離婚、縁組など色々な事情から改製されるのです。
試験的な話をすれば民法の家族法と切っては切れない関係にあるところがポイントでしょう。
民法(実体法)の理解が進めば戸籍法(手続法)の理解も進む、お互いにそういう関係にあります。
せっかくですので、クイズ形式にしましょうか。
例えば前述の「山田花子(旧姓川野)」さんの戸籍を考えてみましょう。
①出生時点の戸籍
本籍 東京都豊島区北町一丁目2番地
氏名 川野一郎
夫 一郎
妻 月子
長女 花子
②婚姻による新戸籍編製
本籍 東京都新宿区東町三丁目4番地
氏名 山田太郎
夫 太郎
妻 花子
長男 花太郎
例えば②の戸籍に次のような記載があったとしましょう。
②をよく見てみると・・・
除籍 【名】花子
【離婚日】令和6年5月20日
【配偶者氏名】山田太郎
【氏名変更日】令和6年5月20日
【氏変更の事由】戸籍法第77条の2の届出
【送付を受けた日】令和6年5月20日
【受理者】豊島区長
【新本籍】東京都豊島区北町五丁目6番地
前述のとおり、本ケースは離婚により新しく戸籍が作り直されているはずです。
それでは花子さんの最新の戸籍はどのようになっていると思いますか?
答えを見る前にしばし考えてみてください。
クイズの答え
まず受験生として「戸籍法第77条の2の届出」を見てピンと来なければなりません。
条文数を覚えていないから無理、、、では理由にならず純粋に家族法の勉強不足です。
まず浮かぶべき規定はこれでしょう。
民法(家族法)の基本条文
民法(e-gov)
(夫婦の氏)
第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
(生存配偶者の復氏等)
第七百五十一条 夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
2 略
(離婚による復氏等)
第七百六十七条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
結婚すると夫婦どっちか名字が変わる!というのは世間常識的なところですよね。
その後どうなるか把握していますか?
【死別の場合】
「そのまま」が原則で、復氏するなら手続が必要です(民法751条1項)。
趣旨としては、婚姻解消の意思が当事者にないことが通常だからです。
祖父母など夫婦どちらか亡くなっている身近な親族がいるでしょう?名字変わってますか?
様々な事情はそのまま継続するのが原則ですが、変える事ができるという取り扱いです。
姻族関係終了の意思表示(民法728条)なんかも改めてする必要がありますね。
ちなみにこの復氏には時期的制限がないので「いつでも」できるというのも受験生的には注意すべき話です。
【離婚の場合】
協議にせよ訴訟にせよ、明確に婚姻解消の意思が当事者にありますよね。
そこで、先とは逆に様々な事情は全て切れることが原則となります。
先の姻族関係も切れるし、お互いの相続権もなくなるし、そして当然復氏です(民法767条1項)。
対比しておくと、復氏が原則で、「そのまま」にするなら手続が必要です(民法767条2項)。
つまり、何もしなければ花子さんは山田から旧姓の川野に戻ります。
ところが変えたくないという事情も存在します。
何かお仕事をしていて山田姓を名乗り続けていたいという事情かもしれません。
特に多そうなのは子供と姓を同じに揃えておきたいという事情でしょう。
現行法下では離婚により親権を花子さんが獲得したとしても、子供の姓は山田のままが原則です。
親権と子の姓は無関係という点には要注意です。
特に子供が幼い場合など、離婚後にも母子の姓を揃えておきたいなどありそうな話じゃないですか。
仮にこのケースで長男の花太郎の姓を川野にしたいのであれば次の手続が必要となります。
子の名字は子供のためのもの
民法(e-gov)
(子の氏)
第七百九十条 嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。
2 嫡出でない子は、母の氏を称する。
(子の氏の変更)
第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
2 略
民法という法律は、子の名字は子供本人の人格権であると考えている節があり、家裁の許可まで要求しています。
この許可というのがハードルがあって、離婚後に子の姓を山田から川野に変えることが簡単ではない理由です。
そこで確実に揃えるため、離婚した花子さんが川野に戻らずに山田の姓を名乗るという事が選択肢に入ります。
これが先の離婚日から3ヶ月以内の届出ということになります(民法767条2項)。
死別での復氏が「いつでも」だったことと受験的にはしっかり対比が必要です。
ちなみにここで面白いのが民法上「称することができる」なんですね。
その点、花子の除籍にもきっちり反映されているといえます。
さて、ここまでの前提知識があれば先の「戸籍法第77条の2の届出」が推測できますよね。
条文なんか見なくたって「あぁ、あの話じゃないかな?」となったはずです。
念のため、条文を見てみましょうか。
戸籍法第77条の2の届出
戸籍法(e-gov)
第七十七条の二 民法第七百六十七条第二項(同法第七百七十一条において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
したがって、花子さんの戸籍は先の条件下においては次のようになっていると推察されます。
※条件次第では父の川野一郎の戸籍に入るというパターンもあります。
③花子さんの最新の戸籍
本籍 東京都豊島区北町五丁目6番地
氏名 山田花子
【名】花子
日本の法体系は実体法と手続法に分かれます。
そのあたりは法学という分野の話になるかと思いますが、それを勉強する題材としても優秀ですね。
もちろん、実体法は民法、手続法は戸籍法の関係となります。
いずれも行政書士試験の試験範囲といえるでしょう。


