先日話題に触れたので、ついでに記事にしておきます。
過去に大揉めに揉めたことがありまして、最高裁判所にまで話が持ち込まれました。
長くなってしまうので結論を先に書いておきます。
・鑑賞や記念目的の家系図(供養目的など先祖をたくさん書くやつ)
➡行政書士等の国家資格はいらない。
・事実証明としての家系図(相続手続に使う相続関係説明図など)
➡行政書士等の国家資格が必要。
少々長いですが、ご興味ある方は読み物としてお付き合いください。
第1回のテーマは「行政書士の職域」になります。
家系図判例の話を踏まえながら考えてみましょう。
争われたのは「事実証明に関する書類」なのかどうか
話の発端は行政書士の資格を持っていない人が巻物の家系図を作成したことにあります。
・・・平成18年6月25日から平成19年3月6日までの間,前後3回にわたり,
北海道・・・において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計33万8685円の交付を受け,・・・平成18年7月10日から平成19年4月1日までの間,前後3回にわたり,
最判平成22年12月20日(裁判所ホームページ)
前記・・・において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計56万7000円の交付を受け・・・
この家系図作成は「事実証明」じゃないか、それは行政書士の仕事だよ!
お金を取っているのなら行政書士法違反じゃないか!と言うことで争いになったのです。
問題になった行政書士法の規定はこちらになります(令和5年3月執筆時点の法令です)。
行政書士法
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。行政書士法施行規則
行政書士法、行政書士法施行規則
(法第十九条第一項ただし書に規定する総務省令で定める手続及び総務省令で定める者)
第二十条 法第十九条第一項ただし書に規定する総務省令で定める手続は、次の各号に定める手続とする。
一 道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第四条に規定する自動車であつて、同条に規定する登録を受けたことがなく、かつ、同法第七十五条第一項の規定によりその型式について指定を受けたものについて、次に掲げる申請を同時に行う場合における当該申請(自動車の保管場所の確保等に関する法律(昭和三十七年法律第百四十五号)附則第二項の規定により同法第四条の規定が適用されない場合にあつては、ロに掲げる申請)の手続(イに掲げる申請の手続にあつては、当該手続のうち自動車の保管場所の確保等に関する法律施行規則(平成三年国家公安委員会規則第一号)第二条第二項の規定による同規則第一条第一項の申請書に記載すべき事項の入力に係る部分に限る。)
イ 自動車の保管場所の確保等に関する法律第四条第一項ただし書に規定する申請
ロ 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)第六条第一項の規定により同項に規定する電子情報処理組織を使用して行う道路運送車両法第七条第一項に規定する新規登録及び同法第五十九条第一項に規定する新規検査の申請
二 道路運送車両法第十三条第一項に規定する登録自動車(次項において単に「登録自動車」という。)又は同法第五十九条第一項に規定する検査対象軽自動車(次項において単に「検査対象軽自動車」という。)であつて、同法第九十四条の五第一項の規定により保安基準に適合する旨を自動車検査員が証明したものについて、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第六条第一項の規定により同項に規定する電子情報処理組織を使用して行う道路運送車両法第六十二条第一項に規定する継続検査の申請の手続
2 法第十九条第一項ただし書に規定する総務省令で定める者は、次の各号に掲げる手続の区分に応じ、当該各号に定める者とする。
一 前項第一号の手続 一般社団法人日本自動車販売協会連合会
二 前項第二号の手続 次のイ又はロに掲げる手続の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 登録自動車に係る手続 一般社団法人日本自動車販売協会連合会及び一般社団法人日本自動車整備振興会連合会
ロ 検査対象軽自動車に係る手続 一般社団法人日本自動車販売協会連合会、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会及び一般社団法人全国軽自動車協会連合会
ちょっと引用し過ぎましたが、要するに「他士業とバッティングしない部分は、事実証明に関する書類の作成は行政書士(弁護士)しかできないよ」と言っているのです。
家系図って事実証明なの?
何故、家系図が「事実証明」となるの?
それは例えば、相続手続で必要となる財産目録の作成や相続関係説明図の作成などがまさに「事実証明」であるところが出発点だと思います。
提出先が明確に決まっていて一定の事実を記載して証明する、文字通りまさに事実を証明するために作られる書類です。
そして、ご先祖様を祀るために作る巻物の家系図についても、そこに生年月日や没年月日、続柄等の身分関係を示している書類であるから、事実証明じゃないか!この見解が第一審・第二審でおよそ採用された論理です(最高裁で覆りました。)。
行政書士の職域ってなに?よくわからんのだが。
司法書士の職域は基本的には登記、税理士の職域は基本的には税務申告、弁理士の職域は基本的には特許庁への申請。およそのところそのように法律関連士業の職域とはわかりやすいです。法律系資格の学習経験のある方であれば、ある程度常識的なところじゃないでしょうか。
それでは行政書士の職域って何なのか?
これは他士業であってもよくわかってない先生が多いと思います。
下手をすると行政書士の受験生であっても、行政書士の本職であっても、当事者にも関わらず正確に理解していない方がいらっしゃるかもしれません。
なんとなく「行政」とついているから、役所への許認可?というのが一般的なイメージなのかもしれませんね。
込み入った話になりますが、行政書士というのは非常に職域が広いです。
これは他の法律関連の士業と比較してもびっくりするほどです。
規定が曖昧なせいで職域が広い、だから一層わけわからん。
間違いなくわかりにくい原因はそこだと思います。
三権分立でいう行政権の範囲
そもそもですが「行政法」という学問があります。
司法試験を筆頭に行政書士の試験であるとか、公務員試験、ほかには大学の講義などでも見かけます。「行政法」を勉強しましょうというわけです。
行政法講学上で登場する議論になりますが、三権分立という話の中で「行政権っていったい何だろう」と考えるコーナーがあるんです。「控除説」と呼ばれるものが通説だと言えるでしょう。
控除説とは、「国の全ての仕事から、国会の仕事と、裁判所の仕事を引いた残りが全部行政だ!」という大雑把な定義のやり方です。行政の仕事というのは高齢者関係の福祉から道路工事、さらには学術の推進など極めて幅広いので真正面から定義することが難しいのです。
そこで、引いたのこり、ぜーんぶ行政でええやん!と言い出したわけです。
そして、どうもこの考え方を思いっきり引き継いでいるのが行政書士という国家資格ということになります。
え?わかったようなわからないような?ですよねー。

左の図で言えば、国がやる仕事の全体(橙色)から立法権と司法権(青色・緑色)を引いた残りの部分が行政権だというわけです(控除説)。
控除説による行政権の範囲は本当に広くて、国がやってる仕事のうち大抵のことはどれもこれも行政権の範疇となります。
そして、この考え方を踏襲したのが行政書士法上に規定がある職域、というわけです。
行政書士の職域は予防法務である
理論的な話はわかったけど、結局のところ行政書士の職域って具体的になに?
この点について日本行政書士会連合会の現会長である常住豊先生の言葉を借りれば行政書士の仕事は「予防法務」であるといいます。
契約書(=権利義務に関する書類)を作るであるとか、証明書(=事実証明に関する書類)を作るなどして後々の紛争を前もって予防するのです。
国民と国民の間の予防、国民と国の間の予防、というわけです(ただし他の士業の専門領域を引いた残り=同法第1条の2第2項)。
この見解は私も同意見でして、遺産分割協議書、財産目録、相続関係説明図、各種契約書の作成などまさに「国民と国民の間」の予防法務そのものだと思います。
許認可申請業務であるとかは「国民と国の間」の予防法務とも言えるでしょう。適切な時期に滞りなく許認可申請が通らないのであれば、事業展開に間違いなく支障が出ますから。
従って行政書士って何をしている職種か?と言われると私は「予防法務の専門家である」と答えるようにしています。
ちなみに隣接士業であっても自らの職域、例えば司法書士について考えてみると登記申請が目的なのであれば事実証明の文書作成(登記原因証明情報であるとか株主総会議事録であるとか)について司法書士の職域として問題なく業務を行うことができます。
第一審・第二審の結論は?
前述のとおり、実はこの家系図判例は最初は有罪だ!とされたのです。
この手の結論がひっくり返った判例というのは「地裁や高裁と最高裁の判断が異なるほど微妙な問題を仕分けしている」と考えた方が良いと思います。ジャッジの専門家同士で下級審と最高裁で意見が分かれたのですから、グレーゾーンの難しい判断をしていると言えます。
家系図問題に限りませんが、一般論として最高裁判所でどんな結論が出たのかというのは業種を問わずに注目してアンテナを張っておくべきですよね。自分の属する業界での問題は自分に置き換えて常々対策を練っておかないと、いつ火の粉が飛んでくるとも限りません。
・・・被告人を懲役8月,2年間執行猶予に処し,原判決もこれを維持した。すなわち,原判決及びその是認する第1審判決は,被告人が作成した家系図合 計6通(以下「本件家系図」という。)は,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当するとして,被告人が業として本件家系図を作成した行為は同法19条1項に違反し,同法21条2号に該当すると判断した。
最判平成22年12月20日(裁判所ホームページ)
執行猶予がついたとはいえ懲役8ヶ月というのはそれなりの罪です。
例えば医師がわかりやすいと思いますが、医師免許を持っていない人がメスを握ってばっさばっさ切っていけば、それは本物の医師より価格が安かったとしても社会は混乱してしまいますよね。これを憲法上の消極目的規制と言いますが、簡単に言うと「国民の安全を守るためだから仕方ない規制だよね、だって社会が混乱するもん」という理屈になります。
というわけで「貴様、行政書士の国家資格がないのに、行政書士の仕事をしたな!この不届き者!」と下級審で言われてしまいました。
しかし、この結論は最高裁判所で180度ひっくり返ります。
キリが良いので次回に話を譲ります。


