財産管理業務・成年後見人等業務と行政書士

身近な法律

財産管理業務や成年後見人等業務が行政書士業務なのか?というテーマになります。
結論からすると「当該業務は行政書士業務である」という事となりましたが、業際問題を含めて非常に考えさせられた話題ですのでまとめてみました。

総務省の見解

下記通知が令和5年3月13日に総務省より発出されました。

○ 行政書士が業として行う行政書士法第1条の2及び第1条の3第1項(第2号を除く。)に規定する業務に関連して行われる財産管理業務(民法(明治29年法律第89号)等の規定に基づき、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位(以下、「管財人等」という。)に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務をいう。以下同じ。)又は成年後見人等業務(民法等の規定に基づき、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位(以下、「後見人等」という。)に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務をいう。以下同じ。)は、行政書士の業務に附帯し、又は密接に関連する業務(行政書士法第13条の6第1号・行政書士法施行規則第12条の2第4号参照)に該当するものと考える。
○ 行政書士が業として行う財産管理業務の例としては、行政書士が同法第1条の2及び第1条の3第1項(第2号を除く。)に規定する業務として行われる相続財産目録、遺産分割協議書、公正証書遺言書等の作成等に関連して管財人等に就き、民法等の規定に基づき当該管財人等として行う相続財産の調査等が挙げられる。
○ 行政書士が業として行う成年後見人等業務の例としては、行政書士が同法第1条の2及び第1条の3第1項(第2号を除く。)に規定する業務として行われる財産目録、各種契約書等の作成等に関連して後見人等に就き、民法等の規定に基づき当該後見人等として行う成年被後見人の財産調査等が挙げられる。

『行政書士が業として財産管理業務及び成年後見人等業務を行うことについて(通知)』総行行第84号令和5年3月13日

少々ややこしいので順を追って見ていきましょう。

問題となっていた業務とは?

まずは問題となっていた財産管理業務成年後見人等業務について前述の通知(以下、R5通知)をもとに整理してみましょう。

財産管理業務とは?

R5通知によると次のように整理されています。

財産管理業務
民法等の規定に基づき、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営・他人の財産の管理・処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理・補助する業務
行政書士が業として行う財産管理業務の例
相続財産目録、遺産分割協議書、公正証書遺言書等の作成等に関連して管財人等に就き、民法等の規定に基づき当該管財人等として行う相続財産の調査等

行政書士の業務について(総務省)

もう少し具体的に噛み砕いて言うと、例えば、「認知症等により判断能力が低下した」であるとか、「足腰が弱って外出が困難になった」であるとかといった状況に備えて対策を講じておくサービスなどが挙げられます。
予め契約を行っておくことで(通常は公正証書で行うことが多いと思います)、そういった状況下になっても各種介護サービスと契約を行ったり、諸費用を預金からお支払いしたりといった事が行政書士のサービスとして可能となります。
2025年問題(団塊の世代が75歳以上の後期高齢者の対象となる)を控えた今、「認知症対策」であるとか「おひとりさま対策」であるとかインフラとして重要になってくると私は思います。終活によるエンディングノートの作成であるとか、遺言書の作成、もっと言えば公正証書による財産管理契約、家族信託の組成など事前に準備できることは実は多岐にわたります。
1点だけ注意しなければならないのは、民法上の意思能力の問題です。
端的に言えば、遺言にせよ契約にせよ、「元気なうちに」しか行うことができないのです。この点が後述する成年後見人等業務との大きな相違点となるでしょう。

第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

民法(e-gov)

なお、「無効」とは法律的に効力がないことを意味します。また、「意思能力を有さない」状態とは、正確ではありませんが認知症の症状が進んでしまって難しい話を理解することができなくなったような状況をイメージすると良いと思います。
遺言や契約が後々ご家族内で争われてしまった結果、それが全てなかったものとして取り扱われる可能性があることを意味します。「お父さん、あのとき認知症だったよね?こんな遺言や契約なんて無効だ!」という主張が通ってしまいかねないのです。遺言の裁判など長いものだと相続時点から数えて10年間も争った例などザラにあり、そうなると家族間に大変な亀裂が入るのは想像に難くありません。
これを私なりに端的に表現すると「元気なうちにしかできない」となります。

成年後見人等業務とは?

こちらもR5通知をもとに見てみましょう。

成年後見人等業務
民法等の規定に基づき、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理・同意・取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務
行政書士が業として行う成年後見人等業務の例
財産目録、各種契約書等の作成等に関連して後見人等に就き、民法等の規定に基づき当該後見人等として行う成年被後見人の財産調査等

行政書士の業務について(総務省)

こちらは法定後見制度が代表例でしょう(『成年後見制度について』裁判所ホームページ)。
民法上、成年後見制度というものがありますが、認知症になってしまった高齢者であるとか、知的障がい者であるとかを保護するための制度です。
前述の財産管理業務と似ている側面もあるのですが、法定後見制度は現実に判断能力が低下してからアクションを行う制度設計になっているところ、財産管理業務は判断能力が低下する前に行う必要があります(任意後見について事前契約が必要なのでこの点は財産管理業務と同様)。

なお、いずれの業務についても「介護施設等との契約」や「各種施設への費用の支払い」である点はご注意ください。
具体的に「介護を行う」のは介護分野の有資格者であって、行政書士の資格だけでは行うことができません。あくまでも私たち行政書士が行えることは「法的なサポート」という事になります。
例えば社会福祉士及び介護福祉士法で規定のある介護福祉士などの各種資格が必要となり、どのような介護を行って良いのかは明確に法律で規定されています(参考:『介護福祉士国家試験』公益財団法人社会福祉振興・試験センター)。

問題の所在は?

R5通知で問題になっていた事は、いわゆる「業際問題」と言って良いと思います。
業際問題とは、士業(弁護士・司法書士・公認会計士・税理士等の法的な独占業務が認められた国家資格)について「ある国家資格は、どの業務を、どこまでやって良いの?」という問題です。
一般の方からすると「一体全体、何をアホな事で揉めているの?」と一笑に付す話かもしれません。
しかしながら、我々士業はこの業際問題は一発で懲戒(要するに資格の剥奪)に該当する非常に重いペナルティが背後にありますから、死活問題と言っても過言ではないのです。
例えば行政書士で言えば、登記(司法書士の独占業務)や税務申告(税理士の独占業務)を行えば一発でアウトです。特に行政書士の業務とは行政控除説をもとにした極めて難しい線引きがなされておりますから、行政書士は特に日々勉強しなければならない重要課題でもあるのです。
運転免許を持っていないのに自動車を運転する、医師免許を持っていないのにメスを振りかざす、といった状態と言えばわかりやすいかもしれません。純粋に危ない話になってくるでしょう。
無免許で知識が担保されないまま業務を行うというのは、やはり社会悪ではないかと私は思います。
自動車を運転したいのであれば、やはり運転免許は取得すべきなのです。

話を戻しますが、つまるところ、「行政書士業務の中に財産管理業務成年後見人等業務が含まれるの?」という点に法律上疑義が生じてしまっていた、という事になります。
同通知がなされる以前より成年後見業務に特化してお仕事をされている先生も知っていますし、私自身そのような問題に直面した事はありませんが、この「疑義が生じている」ことによって業務上支障が出たケースが散見されていたようです。

…しかしながら、実務の現場においては、各自治体が中心となって設立された成年後見中核機関に行政書士の参画が認められない事例があるほか、各地の金融機関や裁判所から当該業務の根拠が不明確であるとの指摘を受けるなどして…

『行政書士が業として財産管理業務及び成年後見人等業務を行うことについて』日行連発第1611号令和5年2月14日

そのような状況に至った原因はある程度の目星はついているところですが、いずれにしても総務省が正面から見解を出してくれたおかげで、晴れて上記業務が行政書士業務だと胸を張って言えるようになったという事でしょうか。
ちなみに、例えば公益社団法人コスモス成年後見サポートセンター公益社団法人成年後見支援センターヒルフェといった成年後見に取り組む行政書士による団体が10年以上前から存在しているところですから、認められて当然と言えば当然だと私は思います。
更に言えば、認知症の患者数は2020年で602万人であるところ、弁護士は4万人、司法書士は2万人、ここに行政書士の5万人を含めても10万人ほどの数字です(重複の有資格者も存在するため)。
認知症の予備軍を含めるとこれからもっと膨大な分母になると想定されるところ、とてもじゃないけど10万人で対処できる数とは思えません。
法律の士業に限らず介護福祉の専門家共々、お互いの専門性をフル活用しつつ協力し合ってサポート体制を構築することこそが必要だと強く感じるのは私だけでしょうか。

法律的な根拠は何になるのか?

今回のR5通知を踏まえて、「財産管理業務成年後見人等業務」に関連する行政書士業務を簡単にまとめると次のようになります。

行政書士の業務

①官公署に提出する書類の作成(行政書士法第1条の2第1項前段)
②権利義務又は事実証明に関する書類の作成(行政書士法第1条の2第1項後段)
③官公署への提出手続の代理(行政書士法第1条の3第1項第1号)
④契約その他に関する書類を代理人として作成すること(行政書士法第1条の3第1項第3号)
⑤書類作成についての相談に応じること(行政書士法第1条の3第1項第4号)
業務に附帯し、又は密接に関連する業務(行政書士法施行規則第12条の2第4号)

(参考)
行政書士の業務について(総務省)
行政書士の業務(日本行政書士会連合会)
行政書士法(e-gov)
行政書士法施行規則(e-gov)

まとめ

冒頭で申し上げたとおり、財産管理業務も成年後見人等業務も行政書士は行うことができる、という事が令和5年時点での総務省の立場であり、結論となります。

○ 行政書士は業として財産管理業務及び成年後見人等業務を行うことができます。(財産管理業務又は成年後見人等業務は行政書士の業務に附帯し、又は密接に関連する業務に該当します。)

行政書士の業務について(総務省)
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