近頃、事業承継に関するご相談を立て続けにいただいております。
事業承継は「言うは易く行うは難し」のまさに典型例というのが実感するところです。
実務上の留意点など特定行政書士・認定経営革新等支援機関の立場より解説します。
なお、登記や税務などにも触れておりますが、業際遵守のうえ専門家チームにより行っている点、留意いただけますと幸いです。
事業承継の出発点における整理
2025年4月の日本法令様への寄稿記事にも触れておりますが、事業承継の本質的な難しさは、法的な形式を整えること以上に、目に見えない「価値」をいかに引き継ぐかという点に集約されます。
(参考/Facebook:日本法令 行政書士業務・情報サイト)
行政書士事務所便り<2025年4月号>「会社を継ぐために必要なことは?―事業承継の基本をわかりやすく解説―」
(参考/X:日本法令 GIS行政書士業務・情報サイト【公式】)
【行政書士事務所便り<4月号>のご案内】 『会社を継ぐために必要なことは?』
支援の現場において、私は「何をゴールとするのか」というコンセンサスを重視しています。
ゴールに向けて事業承継計画のアクションプランを作成し、それを着実に遂行するという姿勢が重要です。
なお、本コラムにおいて、個人事業主についても法人についても基本的なところは変わりません。
まず事業承継の考え方の出発点として、中小企業庁の整理する3つの類型をご紹介します。
端的に言えば「誰が引き継ぐか?」という視点です。
- 1.親族内承継:子や親族に経営権を譲る方法
- 2.従業員承継:既存の役員に経営権を譲る方法
- 3.第三者承継:いわゆるM&Aを行って外部企業へ経営権を譲る方法
次に考えるべきは、「何を引き継ぐか?」という視点です。
私は承継すべき要素を以下の4つに分類して整理します。
- ① ヒト:経営権、組織体制
- ② モノ:不動産、設備、知的財産(有形無形の財産)
- ③ カネ:自社株、財務基盤、債権債務
- ④ 無体資産:企業理念、文化、ブランド力、ノウハウ、人脈
実は、①〜③については専門家の関与があればそれほど難しくありません。
税務上のシミュレーション、代表者変更の登記、許認可の承継手続き、契約書の作成など現に存在する法的手続きによって「形式的」に進めることが可能であり「ゴール」が明確だからです。
資金繰りに関しても、現状、中小企業庁の事業承継補助金や、経営承継円滑化法の金融支援など行政の支援策は充実しており、非常に手厚いといえるでしょう。
ただし、いつまでその施策方針が続くのかは行政次第であるため注意は必要です(行政が支援すると言っているうちに進めるべきことは言うまでもありません。)。
真の課題は、④の「無体資産」、とりわけ「後継者の育成」と「企業文化の承継」にあると考えます。
特に親族内承継や従業員承継においては、専門家が関与してもなお難しいのがこの領域であるといえます。
なぜ「後継者の育成」が進まないのか
多くの現場を見てきて感じるのは、計画的な育成が全く行われていない(もしくは不十分な)ケースが非常に多いという現実です。
理由は現代表の多忙さであるとか、候補者選定に迷いがあるとか、様々なように見受けられます。
一般的に、事業承継計画は3~5年は必要だと言われています。
この点についても多くの誤解があるようで、弊社に相談があった時点で「半年後」や「1年後」、下手をすると「3か月後」といった事業承継計画をよく見ます。
現代表が創業から築き上げてきた営業手法、顧客との信頼関係、そして「肌感覚」とも言える経営判断の基準は、一朝一夕に継承できるものではありません。
例えば、以下のような観点が後継者に備わっているでしょうか。
- 仕事を獲得して事業を継続する責任の重み:現代表が長年培ってきた信用や泥臭い営業活動があってこそ現在の売上が成り立っているという事実への理解と、自ら最前線に立って道を切り拓く覚悟。
- 危機管理の財務感覚:震災やパンデミックのような不測の事態に際し、どの程度の内部留保があれば企業を守り抜けるかという実感。
- 財務計画の重み:家計簿の延長ではない、桁の違う数千万~億単位の販管費やキャッシュフローを動かす責任感。全従業員の生活を抱えるという重圧。
- ステークホルダーとの信頼関係:既存顧客との関係構築は勿論、取引関係にある金融機関や各種団体などとの関係構築まで含みます。
短期間での事業承継計画の中で、現社長に同行して1回挨拶した程度で顧客と関係構築は果たして可能なのでしょうか。取引金融機関の担当者や支店長との関係構築は果たして可能なのでしょうか。
財務面等の経営者に必要な素養については、例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業大学校にて行われている経営後継者研修の活用なども視野に入れるべきです。
半年ほどの研修で費用もそれなりにかかりますが、ご自身の育てた大切な事業の将来を考えるのであれば意義があるのではないかと思います。
No.1 経営後継者研修 第47期
研修日程:2026年10月1日(木曜)〜2027年7月23日(金曜)
研修期間(時間):全195日(1197時間)
受講料:1,283,000円
対象:後継者、以下(1)〜(2)のすべてを満たす方
(1)中小企業の経営後継者候補又は経営幹部候補の方
(2)心身ともに健康な方
※自社または他社における実務経験が1年以上ある方が望ましい。
No.14 経営後継者研修 特別体験プログラム
研修日程:2026年4月27日(月曜)~4月28日(火曜)
研修期間(時間):全2日(13.5時間)
受講料:22,000円
【(参考)中小機構とは?】
3分でわかる中小機構 | 中小機構について | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
一見すると130万円の講義は高額に見えるかもしれませんが、1日あたり7,000円弱の価格設定ですね。
民間での実施はこの価格帯では難しいのではないかと思います。
認定経営革新等支援機関の研修で中小企業大学校は何度も活用しておりますが、講義の品質について非常に優れており、私も信頼しているところです。
本格的に後継者の育成を考えるのであれば、選択肢の一つになるかと思います。
日本の「家訓」に見る理念継承の知恵
企業文化の引き継ぎにおいて、日本には古来より「家訓」という優れた文化があります。
400年続く京都の老舗には、次のような教えが遺されていました。
それ家を起すも崩すもみな子孫の心得ばかりなり。亭主たる者、その家の名跡財宝自身の物と思ふべからず。先祖より支配役を預り居ると存じ、名跡をけがさぬやうに子孫へ教え、……(後略)
ここには、経営を「個人の所有物」ではなく「先代から預かり、次世代へ繋ぐべきバトン」と捉える思想があります。
現代でいう「ビジョン」や「パーパス」そのものです。
この精神性こそが、無体資産を次代へ円滑に繋ぐための重要な推進剤となります。
各種ガイドラインの活用と専門家への相談
国も事業承継の円滑化に向け、様々な指針を公表しています。
まずはこうした資料に目を通し、自社の立ち位置を客観的に把握することをお勧めします。
【各種ガイドラインのリンク】
- 経営者のための事業承継マニュアル(中小企業庁)
- 事業承継ガイドライン(中小企業庁)
- 中小PMIガイドライン(中小企業庁)
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁)
- 事業承継 (中小企業庁)
- 知的資産経営ポータル (経済産業省)
- 事業価値を高める経営レポート(中小機構)
- ローカルベンチマーク(経済産業省)
- 経営承継円滑化法による支援 (中小企業庁)
- PMIを実施する (中小企業庁)
まとめ
事業承継は、単なる手続きではありません。
ご自身の育ててきた事業を未来へと引き継ぐため「経営の再定義」が必要です。
弊社では、各種専門家と連携しながら、特定行政書士・認定経営革新等支援機関として事業計画の策定を通じた「企業文化の継承」にコミットすることを心掛けています。
なお、本コラムにおいては「事業承継の主体・客体」の話を中心に展開しましたが、事業面のみならず親族面にも目を向けるべきであり「遺言書」の作成を行うべきことは言うまでもありません。
例えば、「株式の分散」は意思決定権の分散を伴うため、事業運営の阻害要因となる場合もあるでしょう。場合によっては積極的に経営承継円滑化法による遺留分の特例制度を活用すべき場合もあるでしょう。
事業承継と遺言書作成は両輪であって、間違いなくセットで考えるべき論点であることを最後に付言させていただきます。
「何から手をつければいいかわからない」
その一歩目から、伴走支援を行っておりますのでお気軽にご連絡頂けますと幸いです。

