認知症による行方不明問題をご存じですか?

医療・社会福祉

現在、認知症による行方不明が社会問題化しつつあります。
認知症は厚生労働省の試算によると2025年には5人に1人になると試算がなされているところで、決して他人事ではありません(内閣府ホームページ)。
各自治体で単身高齢世帯が爆増している事を考えると今後、本当に大変な問題になるのではないかと危惧しています。
そこで、簡単にではありますが認知症による行方不明問題に焦点を絞って情報をまとめてみました。

認知症による行方不明者数は?

2023年6月22日、警察庁により行方不明者の統計が発表されました。
同発表よると、令和4年(2022年)の行方不明者数は18709人となり、過去10年でおよそ倍増する数値となってしまっています。
残念ながら今後これは増加していくものと思います。
計算の始まった2012年からの統計データをまとめたものがこちらになります。

認知症を原因とする行方不明者数の推移(警察庁統計より作成 2012~2022)

何故、行方不明になってしまうのか?

認知症の症状の1つとして「歩き回ってしまう(徘徊)」というものがありますが、これは本当によく耳にするところです。
神奈川県にお住まいの方が静岡県で保護されたり、東京都にお住まいの方が埼玉県で保護されたりだとか実例を見ています。

そもそも何故、そんな長距離を着の身着のまま歩いて行ってしまうのか?
これについては様々な要因があるとされています。
例えば「兄弟に会いたい」であるとか、「家に帰りたい」であるとかです。
ご本人からしてみれば何か理由がある場合も多いのです。
(そういう意味で「徘徊」という用語が相応しいとはあまり思えませんがご了承下さい。)

ただ単に長距離をお散歩して無事に保護されたと言うのであれば良いのです。
しかし、重大な事故を引き起こして遺族に莫大な賠償請求があった実例が存在するところ事は知っておくべきでしょう。

JR東海事件の概略

ここで各種資格試験等にも登場する有名な最高裁判例をご紹介します。

話は平成19年(2007年)に遡ります。
認知症を患っている愛知県に住む父がデイサービスから帰宅後に外出をします。
当時、父は認知症により徘徊を繰り返してしまっていました。
自らも要介護1の母が同居しており介護をしていたはずですが、わずか10分ほど居眠りをしてしまったというのです。
玄関先には扉に近づくとチャイムが鳴る仕組みにしており、毎日チャイムで母は起こされる生活を余儀なくされていたようです。
東京都で離れて生活する息子も認知症への理解はあり、父の介護にも協力的でした。
ほぼ毎週末、新幹線で実家に帰り、父が満足するまで散歩に付き添うなどしていたと言います。
そんな状況で父が電車に跳ねられてしまったという事情でした。

そんななかJR東海が、愛知県で同居の母・離れて暮らす東京都の息子を相手に720万円の請求をして裁判に至ります。
第一審の地方裁判所では「行方不明時に第三者の好意に期待するのは単なる甘え」とまで言われてしまい、720万円全額の請求が認定されてしまいました。
その後、第二審の高等裁判所での360万円の認定を経て、なんとか最終的に最高裁判所として遺族に賠償責任はないという結論となりました。
この事案としては支払う必要がなかったですが、第一審では請求額全額が通っている点約10年間も裁判で争ってしまったという点などを考えると本当に他人事ではありません。

理論的な解説は避けますが、興味ある方は以下のページなどを参考にしてみてください。
・最高裁判例平成28年3月1日(最高裁判所ホームページ
・認知症事故訴訟、家族に賠償責任なし JR東海の逆転敗訴が確定 最高裁判決(産経ニュース
・認知症の父が電車にはねられ死亡、高額賠償請求 遺族の苦闘、それを救った最高裁判決(京都新聞
・長男が語る「認知症鉄道事故裁判」(全日本民医連
・認知症鉄道事故裁判 ~閉じ込めなければ、罪ですか?~(Amazon

認知症による徘徊の対策はあるのか?

認知症への理解を深める事1人で悩まない事、まずはこれに尽きると思います。
相談先としては地域包括支援センター(厚生労働省ホームページが良いのではないかと思います。
全国各地に5000以上設置されており、ご存じなければ役所の福祉課等に問い合わせてみると良いでしょう。

具体的な対策としてはまだまだ対処療法的な感覚は拭えません。
認知症の症状は個人個人で多岐に渡りますから「これを行えば大丈夫」というのは中々難しいのだと思います。
しかし例えば、玄関先にセンサーを設置するであるとか、靴の中にGPSを入れて居場所確認であるとか持ち物にシールを張って保護であるとかすぐに行える対策もあります。

検索をすれば下記のように様々な情報を得ることができます。
本やネットから情報を集めるという事も大事だと思います。
・【認知症学会理事監修】認知症による徘徊への正しい対策方法と探し方(みんなの介護
・【知っておきたい】認知症による徘徊―その原因と対応方法(ライフル介護

国による認知症対策は?

先日、2023年6月14日に認知症基本法というものが成立しました。
・認知症基本法が成立 尊厳保持、本人の意見反映(日本経済新聞
・認知症基本法案(衆議院
・共生社会の実現を推進するための認知症基本法案(参議院

日本の法律で「基本法」と銘打っているものは多く、例えば環境基本法障害者基本法などがあります。
これらは何かの権利義務を具体的に定めた、というよりは「これから色んな法律や制度を作っていくときの方針にしようね」というニュアンスのものが多いです。
ですので、認知症基本法が成立したと言って何かが今すぐ明確に変わるというわけではありません。
ただ、これを受けて各種政策などが打ち出されていきますから、今後「共生」に向けての取り組みが行われていくものと思います。

ようやく第一歩を踏み出した、とも言えますね。

認知症についての理解を深めましょう

認知症を手っ取り早く勉強するには「認知症サポーター養成講座」を利用することが個人的にはオススメです(私も取得しています)。
コロナ禍の影響で一時期中断されていたようですが、最近また再開されつつあります。
役所の福祉課等が主催となっており、無料というのも嬉しいです。
およそ2時間程度の講義で、時間さえ合えば手軽に受講できるというのも良いですね。
例えば、豊島区役所だとホームページ広報紙などで告知がなされています。
興味がある方は是非、お近くの市役所などに問い合わせてみてください。

最後に本記事に近い内容の動画を見つけましたのでご紹介させて頂きます。
「見守りシール」や「認知症サポーター」などの解説がなされているので、徘徊による行方不明対策として参考になるかもしれません。

増える認知症の行方不明者 対策は? 宮崎市の取り組み(MRT宮崎放送ch  2023/06/23)
PAGE TOP