全部あげるって遺言はまずい?①

遺言

遺言と相続は切っても切れない関係にあります。
先日の記事でもお伝えしているとおり、確かにどのような遺言内容にするかは遺言者の自由です。
しかしながら、何も考えずに遺言を書いてしまうと民法上認められた権利によって後に裁判で争うことになる可能性があります。家族間で血みどろの殴り合いが始まってしまうかもしれないのです。
相続手続を考える場合には勿論のことですが、遺言を書く場合であっても紛争防止という目的のためには「相続制度」を概略で良いので知っておくべき話です。

第1回目のテーマは「相続制度を無視して遺言を書いてしまったらどうなるか」という側面から見ていきましょう。
そもそも何で遺言と相続が関係あるのか?というところに着目してみてください。

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好きに遺言を書いて何が問題なの?

例えば、次のような人物関係で考えてみましょう。
【亡くなった人(被相続人)】
 夫  山田太郎
【遺産を貰うべき人(法定相続人)】
 妻  山田花子
 長男 山田一郎
ここで、山田太郎が「全財産を長男一郎に相続させる。」という遺言を書いて亡くなったとしましょう。例えば長男一郎に事業を継がせたいであるとか、戦前の家督相続をイメージしているとか理由は様々でしょうが実務的にもあり得る遺言内容です。

遺留分制度1

この遺言を書いた時点では全く問題なかったとしても、山田太郎が亡くなったタイミングで妻花子と長男一郎が険悪な状態になってしまっている事だってあり得ますよね。
あまりそんな事を考えたくはありませんが、遺言により全財産が自分にあることを盾にして妻花子に一円も渡さずに「うちから出ていけ」などと長男一郎が言いだすかもしれません。
例えば妻花子が後妻で、長男一郎は前妻の子で仲が悪いなどという話は現実にもありそうな話で、机上の空論とも馬鹿にできません。

預貯金などを長男一郎が自分のものにするのは勿論ですが、土地や建物について長男一郎は所有権を持ちますので、法律的に妻花子を追い出すことをできてしまいます。大袈裟に感じるかもしれませんが国家権力を持って実現することができる、という意味です。
このケースで、長男一郎は「所有権者」という立場ですが、妻花子は「不法占拠者」という苦しい立場になってしまいます。

遺留分制度2

おそらく妻花子は年金などで生活しているでしょうから、どう考えても生活に困窮してしまいます。住む家がないという事の負担は実際問題非常に大きいと思います。頼る親族がいて住む場所を確保できたとしても、今後の生活費など心細いことに違いないでしょう。
しかし、「所有権があるので出て行ってくれ」という長男一郎の主張はそれはそれで法律的に正しく、しかも実現することができてしまいます。
妻花子が「いやだ、絶対に出て行かない」と踏ん張ることは極めて難しいと言えます。

妻花子の目線でとても酷いルールですよね。
次回のテーマは「民法はそんな酷いルールなのか?」になります。

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