著作権に関する相続案件が一段落したため、実務的な論点整理を目的として、事例を共有します。
なお、お客様の掲載許可は頂いておりますが、事案の特定を防ぐため抽象化しております。
概要
本件は、相続開始後のヒアリング過程で、被相続人が多数の著作物を出版し、賞の受賞歴があった事実が判明しました。
今後の展望として全集刊行、映画化といった企画も予定されているとのことで、単なる財産承継の範囲を超えた「文化的遺産の承継」が論点となった事案でした。
著作権の相続に関する基本的視座
著作権は相続財産として相続税の評価対象となる一方で、通常の金融資産や不動産と異なり、「経済的価値」と「文化的意義」が交錯するため、以下の観点からの検討が求められます。
印税収入の有無と相続税評価
著作権に係る印税収入は、相続税評価の対象となります。
国税庁の通達(相続税法基本通達148)では「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の年平均額」を評価額とすると定められています。
弊社の相続業務においては、遺産目録を行政書士が作成を行って遺産の概要を整理し、状況に応じて税理士にお繋ぎするという流れが一般的です。
直近の印税収入が相続税評価の対象となる関係から、出版契約と印税状況は必ず確認すべき事項となります。
出版契約の存否と著作権の保護期間
書籍を出したといったとき、多くの場合には出版契約が存在していた可能性が高いと言えるでしょう。
出版権には存続期間がありますから、その存否確認が必要となります(著作権法83条)。
改めて何かの契約書を作成すべきかどうか、というのは事情によります。
本件では「過去の状況整理」が必要との判断より複数社との調整の上、新たな契約書を取り交わしました。
なお、あまり知られていないかもしれませんが、契約書などの書類作成支援は行政書士業務とされています。
紛争性があるなどの事情を除けば問題なく作成可能です(行政書士法上の権利義務・事実証明関係書類の作成権限。)。
契約締結についての判断は一概に言えないところがありますが、著作権の保護期間が「著作者の死後70年」であることが1つの判断材料です(著作権法51条)。
つまり「中長期的な将来、活用する余地があるのかどうか」といえるでしょう。
問い合わせ窓口と文化庁の登録制度
著作物の利活用において最も実務上の障害となるのは、相続人の拡散による「権利者不明問題」です。
保護期間が長期である以上、事案によっては三次相続・四次相続なども考慮したスキーム構築が重要になります。
権利者不明に陥った場合に問題になるのは「問い合わせ導線」が確保できないことにあります。
仮に何も手立てを行わなかった場合に三次相続・四次相続と代を重ねていってしまうと相続人の数が膨れ上がる可能性があります。
そうした事態になってからの権利者確定には大変な労力が必要になり、下手をすればダンボール1箱分くらいの戸籍を収集しなければならなくなる場合もあり得ます。
そのため、単に増刷や印税収入といった経済的側面のみならず、著作物の活用を希望する第三者のために利活用の余地を残すべきかどうかという視点も重要でしょう。
例えば、何かのきっかけで出版した小説を掲載したいというニーズが生まれるかもしれません。
また、遺作の再評価から増刷等のニーズが生まれるという事態も状況によってはあり得るでしょう。
こうした問題に対し、文化庁の著作権登録制度は、権利関係の公証手段として有効です。
文化庁の登録制度は現行法上、あくまでも任意的な制度です。
しかし、予め登録をしておいて承継が生じる度にこまめに手続を行うことによって、この権利者不明問題は回避することができます(「著作権に関する登録制度についてよくある質問」文化庁)。
そのほか、著作権の管理団体に委ねるというのも場合によっては選択肢となり得ます。
ただし、ランニングコストがかかってしまう場合が多いため、結局のところ承継した遺族で管理を行うのか委託するのかの判断が必要であるといえます。
問い合わせ窓口の検討
【遺族が自分で行う】
・手段:文化庁の登録制度の利用、全集刊行の奥書に出版社と共に明記するなど。
・メリット:登録手続のみでランニングコストはかからない、行政による公証が可能。
・デメリット:相続が生じた際に忘れずに相続人が手続を行う必要がある。
【アウトソースを行う】
・手段:著作権の管理団体の活用など。
・メリット:問い合わせ導線が確保できる。
・デメリット:ランニングコストや中間マージン等の発生、行政ではないので公証は不可。
例えば書籍について言えば、まさに思想や想いを文字として綴るものですから、著作者の生きた証と言っても過言ではありません。
そのため遺作について端的に直近印税の有無だけに着目するのではなく、どのような活用の余地があるのかどうかが重要な視点のように思います。
著作権とは「文化の発展に寄与すること」を目的とする制度ですから、その意味でも利活用の余地を残すか否かはとても大事な視点といえるでしょう(著作権法1条)。
明確な連絡先の公示というのは問い合わせ導線の確保に繋がり、文化的資源が埋もれてしまうことの防止に繋がります。
寄贈制度と文化の承継
著作権の経済的価値とは別に、遺作を社会に還元する方法として、書籍の寄贈も選択肢となります。
なかでも、国立国会図書館の寄贈制度は、文化的資料の恒久的保存という観点から有意義です。
近年デジタルアーカイブの取組みがありますから、半永久的な保存が可能となります。
そのほか場合によっては地元の図書館、学校といった施設への寄贈も選択肢といえるでしょう。
遺作に込められた想いが広く共有され、後世に資することは故人の供養という意味でも大きな意義があります。
新たな利活用について
これまでは、故人の遺作をどう守り、どう継承するかという観点から著作権を検討してきました。
しかし、たとえば全集の刊行となれば、既存著作物の再編集に加えて故人の半生を綴るといった工夫もできることでしょう。
そうなれば「単なるリメイク」ではなく、編集著作など新たな著作権として成立する余地もあります(「二次的著作物」といいます。)。
また、映画化が予定されている場合には、監督・脚本家・出演者・製作者など多くの関係者が関与し、さらに出資する映画製作者や原作との関係をどう整理するかが重要になります。
このように将来的な利活用を検討してみると、活用類型ごとに必要な手続が異なります。
出資の規模や収益性など事情に応じて個別に判断する必要がありますが、少なくとも、契約書作成は重要な検討項目となります。
冒頭で触れたように、「契約と印税収入」は大事な検討項目ですが、相手方の協力が不可欠であるため、調査を行うだけでも想像以上に煩雑な調整が必要となる場合もあります。
とくに、二次相続・三次相続と代を重ねた場合、契約書の所在は、権利承継を担う相続人にとって大きな参考資料となります。
なお、前述で検討した「権利者不明問題」についても、登録制度の検討など同様に考慮する必要があるでしょう。
あわせて、将来の管理までを見据えるのであれば、遺言書によって著作権の帰属や管理方針を明示しておくことも、有効な選択肢の一つとなります。
文化と相続の交差点としての著作権
著作権相続は、「財産承継」と「文化承継」という二つの価値軸が交差します。
印税の有無や契約の存否だけでなく、「いかに故人の思想や言葉を次世代へとつなぐか」という視点こそが、専門家の関与において不可欠と考えます。
制度的には文化庁登録制度、実務的には出版社との調整、倫理的には遺族の意向と社会的意義のバランスなど、民法相続法の理解を前提として幅広い横断的な専門性が問われる領域だといえるでしょう。
どこまで何をやるべきか?というのはケースバイケースです。
一方で故人の生きた証を後世へと伝えることも重要です。
しっかりと整備することよって文化の発展に繋がりますし、何より遺作に触れた誰かの心を動かすかもしれません。
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