遺言制度への誤解と偏見①

遺言

遺言(ゆいごん)と聞くとマイナスなイメージはありませんか?
どうしても「死」を連想してしまうので不吉なものと捉えてしまうかもしれません。
しかし、先日の記事でお伝えしたとおり、遺言は「家族へのラブレター」です。
大切な人への想いを文章で表現するのです。

ただ、死というマイナスなイメージから誤解が生じているかもしれません。
よくありそうな誤解を1つ1つ解いていきましょう。
第1回目は「うちは財産がないから大丈夫」です。

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財産がなければ揉め事が生じない?

結論から申し上げますと、財産の多寡と紛争の可能性は関係ありません。
遺産が多かろうが少なかろうが揉める場合は揉めるのです。
この点について揉める局面である遺産分割についてまずは見ていきましょう。

遺産分割協議とは?

ご自身が亡くなった後、遺言がなければ基本的には遺産分けの話し合いをすることになります。これを「遺産分割協議」と言います。
ある種の家族会議なのですが、これには他の会議にはない大きな特徴があります。

まず、他の「会議」を考えてみましょう。
例えば、中学校で文化祭の出し物を何にするか?これを決めるときには1人1票で投票します。アタマ数1票の過半数で可決になりますよね。また、株式会社の株主総会で議題を決めるときには株主がそれぞれ持株数(議決権)を投票して、トータルの過半数で可決と法律で決められています(会社法第309条第1項:普通決議)。
そうです、会議というものは通常「多数決」で決めるのです。
票を多く集めた意見の採用です。
ところがこの「遺産分割協議」という家族会議はそうではありません。

民法
(遺産の分割の協議又は審判)

第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

少々読みにくい規定なので嚙み砕いて言うと、この遺産分割協議という家族会議は、相続人全員でやらないといけません。
1人でも除外して話を進めようとしても「効力がありません」と言われてしまいます。
さらにここは相続人「全員の同意」が必要だとされています。
各種の相続手続に必要な遺産分割協議書は共同相続人全員で書類を作る必要があるんです。

最終的には家庭裁判所のお世話になる

誰かの同意が得られないとき、つまり「協議不調のとき(orそもそも協議ができないとき)」には同法第2項により家庭裁判所のお世話になります。
実務上は、まずは調停で話し合いを行ってそれでも協議不調であれば審判へと進む流れになります。法律上、遺産分割は調停前置主義が採られているわけではありませんが、職権により調停が促される場合が多いのではないかと思います(家事事件手続法第244条、第274条)。

財産別の紛争の割合

毎年裁判所は司法統計というデータを公開しています。
令和4年版の司法統計(令和3年のデータ)によると持ち込まれた遺産分割事件数の合計は13,442件でしたが、6,996件について財産の内訳が公開されています。
こちらはその司法統計の数字をそのままグラフにしたものです。

遺産分割事件 遺産の価額別

注目して頂きたいのは、1000万円以下が30%以上を占めている点です。5000万円以下なら70%以上となってしまいます。世の中の遺産分けの紛争のほとんどは5000万円以下というのが事実です。
これは令和3年度が特別高かったわけではなく、10年ほど見渡しても毎年似たような水準を占めています。おそらく今後もこの傾向は変わらないと思います。

つまり、「自分の財産など少ないから揉めるわけがない」というのは大きな間違いと断言できます。

なお、令和3年度に持ち込まれた遺産分割事件数は13,442件ですが、もちろんこれは氷山の一角です。仮に揉めたとしても裁判までいかないことの方が普通の相続事件は多いんです。「少しでも揉めた遺産分割協議」というのは更に多いと思われます。
また、遺産分割協議の実態は「声の大きい相続人」の掛け声で決まる場合も多いでしょうから、「わだかまりを抱いた人のいる遺産分割協議」となると調査は不可能ですが、凄まじい件数になってしまうと思います。

家族へのラブレターが最善の予防策である

家庭裁判所のお世話にならないなら良いや、というわけでもありません。
相続手続が終わって兄弟が二度と会わないわけはないんですから、その後の関係性が果たしてどうなるかも考えなければなりません。
わだかまりを抱かずに残された家族がご自身の遺産分けをする。
回避する手段はいくつかありますが、その最も有効な手段が先日お伝えした「付言事項」です。

家族へのラブレターで後の家族間紛争を防止できる、やらない選択肢はないと私は思います。

まとめ

  • 「財産が少ないから揉めない」は大きな誤り。
  • 1000万円以下の紛争数は全体の3割を超えている。
  • 家族へのラブレター(遺言)で予防が可能。

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