遺言を書くにあたって、遺留分という制度を知っておいた方がよく、遺留分を計算するためには相続制度を知る必要があります。
第5回目は「法定相続分の全体像」というテーマで見ていきます。
前回は配偶者を除いた場合でしたが、今回は配偶者を交えた場合の考え方になります。
民法による相続制度は配偶者に特別な地位を与えています。
配偶者には多く法定相続分が決められている
まずは概括を見てみましょう。
民法のルールをまとめると、こうなります。
配偶者がいる場合の法定相続分
配偶者:第一順位 = 1:1
配偶者:第二順位 = 2:1
配偶者:第三順位 = 3:1
各種試験の受験生としては「配偶者は第”一”順位のとき”1”、第”二”順位のとき”2”、第”三”順位のとき”3”、他の人は常に”1”だ!」と覚えれば楽ちんです。
一応、根拠の法律を引用するとこちらになります。
民法
(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。(法定相続分)
e-gov法令検索(民法)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
詳しい解説は後に譲りますが、ここで出た法定相続分の割合が遺留分算定の基準になります。
逆に言えば、配偶者は常に遺留分が認められますから、何らかの事情で1円も遺産を貰えないような場合にも遺留分侵害額請求という権利によって保護されるという仕組みです。
法定相続分が多く決められているので、最低限の取り分である遺留分も多いという関係になります。
従来、日本は「夫が稼いで、妻が家を守る」という世帯の形が多かったところもありますから、稼いでいた夫が亡くなった場合に一気に生活に困窮することになりかねませんよね。
また、基本的に個人主義的な夫婦別産制(民法762等)が採用されているとはいえ、配偶者というものは共同生活を送る中で夫婦として協力して生活していたわけです。
その辺りが配偶者に特別な地位を与えている事情だと言われているところです。
配偶者とは戸籍に書かれている人だけである
世の中には様々な夫婦関係がありますから、一応の注意喚起を込めて補足しておきます。
民法や戸籍法という法律は、法律婚主義を採用しています。
ここで言う「配偶者」とは文字通り、婚姻届を出して戸籍にバッチリ書かれているかどうかを意味します。離婚届を出して婚姻関係が解消していれば相続することはできません。
特に注意が必要なのは婚姻関係にない「内縁関係」やLGBT関連の「同姓パートナーシップ制度」という夫婦関係にある方々になります。
こちらも現行法上、お互いに相続することはできません。
特にLGBTについて現状様々な議論がなされているところですが、少なくとも執筆時の令和5年4月時点では正面から相続権が認められているわけではありませんし、法改正予定も特に耳にしていません。
現行法下の法律婚以外の関係にある方は、遺贈であるとか何らかの対策を講じておかないと相続が生じた場合に1円も貰えない事態に陥ってしまいます。
逆にきっちり対策を講じていれば法律婚に近いような状態にすることは可能です。
現在、法律婚以外の関係にある方は「自分が亡くなったとき相手は大丈夫か?」という視点で考えてあげる事が特に必要であると言えます。
ご自身の死後に大切な人が生活に困窮するような事態になることはできることなら回避すべきです。
一方で婚姻関係にある配偶者であれば身分保障がされているので、全く対策を講じていなくても手段があるとは言えます。
しかし、婚姻関係にある方であっても「働き手の自分が亡くなったとき、専業主婦の妻の生活は大丈夫か?」というような視点は大切です。
さて、キリが良いのでこのくらいにしましょう。
次回は「法定相続分を具体的に考える」というテーマで見ていきましょう。