遺言は何を書いても自由ですが、法律に書かれている事しか遺言で実現することはできません。
遺言で実現できることの代表例が「自分が亡くなってから遺産を誰かにあげること」になります。
この場合に、誰に何をあげようが遺言を書く人の自由です。
しかし、民法という法律には「遺留分侵害額請求権」というものが認められています。
この「遺留分」という制度を全く考えずに遺言を書いてしまった話がこちらのシリーズでした。
では遺留分という取り分はどの程度か?を今回から具体的に見ていくことにしましょう。
第1回目のテーマは「遺留分を請求できる人」についてです。
遺留分権利者は誰だ?
遺留分権利者(いりゅうぶんけんりしゃ)とは、文字通り「遺留分を請求できる人」という意味になります。
勘の鋭い方は「はて、法定相続人と何か違うのか?」と思うかもしれません。
全ての法定相続人が遺留分を請求できる人とは限らないのです。
まずは法定相続人のうち、遺留分を請求できない人の代表例を見ていきましょう。
兄弟姉妹は遺留分を請求することができない
法定相続人となる可能性のある人というのは、こちらのシリーズで解説したとおり、配偶者・子・親・兄弟姉妹でした。
そのうち兄弟姉妹には遺留分が認められていないというのが結論になります。
民法
e-gov法令検索(民法)
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。(※筆者注。各号は省略。)
このルールを逆に読めば、兄弟姉妹の事は全く考えずに遺言を書いてしまっても、法律的には特段問題が生じることはないという事になります。
現実によくある相続トラブルとして、配偶者vs兄弟姉妹の争いというものがあります。
明確に遺言を作成していなければ、相続手続を進めるにあたって遺産分割協議が必要となりますが、そこで紛糾する場合があるのです。
「そこの土地は亡くなった兄がご先祖様から譲り受けたものだ。なんで部外者の配偶者のものになるのだ、許せない。兄弟姉妹である我々に明け渡すんだ、出ていけ!」
遺産分割協議が紛糾して最も困るのは銀行預金等の資産凍結の可能性が出てしまうことでしょうから、お子さんのいない夫婦などはしっかり考えておくべき話であるとも言えます。
兄弟姉妹というのは生計が全く別であることが多いでしょうから、多くの場合は配慮すべきは遺された配偶者であると言えるでしょう。
遺された配偶者の生活を考慮して、全ての財産を配偶者に渡すことにしても全く問題ありません。
その場合であっても、兄弟姉妹には遺留分が認められてないので自分たちによこせと一切言うことができません。民法という絶対的なルールがそれを是としています。
遺留分は生前に放棄してもらうことができる
遺留分の放棄という手続を駆使して後のトラブルを回避することも可能です。
家庭裁判所で具体的な諸事情を考慮して判断がなされますので、厳格な手続と言えます。
民法
e-gov法令検索(民法)
(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
典型的な事例としては「長男に家業である農業を継がせる」というようなケースです。
農業というものは田畑などの土地であるとか、農業用機械であるとか、家業を継がせるとなると相続として承継させなければならないものが多岐に渡ります。
二男に金銭を渡そうにもまとまった現金は事業用資金として長男に渡さざるを得ない、というような事情もあるでしょう。
そういった場合に、長男が家業を継ぐために必要だという事を二男に理解してもらい、遺留分放棄の手続を行ってもらう事が後のトラブル回避には有効だと言えます。
なお、いったん遺留分を放棄した後に事情が変わる場合もありますよね。
相続開始前であれば、所定の手続を経れば遺留分放棄の撤回が可能とされるのが実務上の取り扱いです。 この点、相続開始後になると遺留分放棄の撤回が認められないという高等裁判所の裁判例があるので注意が必要なところです(仙台高決昭和56年8月10日)。