今回は不動産の相続登記の義務化・相続登記の非課税について触れてみたいと思います。
表題の「相続登記の料金が無料」という点について先に結論だけ申し上げると「土地」について「1筆100万円以下」という限定がかかっています。
「全ての不動産」というわけではない点、まずはご了承ください。
非課税の話は確かにお得なので期間内にやるべきだと思います。
しかしそれよりも相続登記が義務化という点が本当に重要な改正となります。
近年の制度改正の概略についてまとめてみました。
第1回目は前提知識をテーマにそもそも不動産登記とは何かという話から見ていきましょう。
不動産の登記ってなに?
不動産に関わる仕事でもしない限り、なかなか不動産登記というものに触れる機会がないと思うのでそこから説明をしていきたいと思います。
簡単に言えば「不動産」とは「土地と建物」のことを法律的にも意味します。
日常用語と同じなので簡単です。
民法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
(不動産及び動産)
第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
「登記」とは「名簿みたいなもの」とイメージすればわかりやすいのではないかと思います。
所有権や抵当権をはじめ、権利というのは外から目に見えません。そこにある土地や家が誰のものであるのかは実際に話を聞いてみたり売買契約書を見てみたりしないとわからないのです。表札があるだけでは借家かもしれませんし、その人の所有権の証明にはなりません。
誰に所有権があるのか、誰の抵当権(住宅ローンをイメージすると良いです)が付いているのか、外から見て目に見えないので、みんなが見てすぐにわかるような状態でないと困るわけです。
不動産取引は動産などに比べて極めて高額な取引になってしまうことが多いので「権利を見える状態にした」、これが不動産登記という制度です。
そこで、法務局に不動産の専用名簿を作ってどんな権利がその不動産にあるのかないのか管理するようにしたのです。看板や表札を立てるとか他にもいろいろ手段はあると思いますが、管理がしやすいので「不動産専用の名簿」を国は作りました。
もっと大雑把に言えば「不動産の登記をする」とは「不動産の名簿を書き換えること」だと思えばよろしいです。
今まで義務じゃなかったの?
不動産登記のうち前述の所有権であるとか抵当権であるとか(権利の登記と言います。)についてはこれまで義務とはされていませんでした。
ただ、不動産「売買」について言えば、実務的に100%と言ってよいくらい不動産登記は「やるのが常識」です。住宅ローンを組んだ場合などでは「登記は義務じゃないからやんないよ」なんてゴネたら100%融資などされませんし、そもそも民法という法律で登記をしないと極めて重大なリスクがあるからです(民法第177条)。詳しい話は対抗要件の問題になって本筋から外れてしまうのでこちらをご覧ください(wiki:対抗要件)。
例えば麻雀で言えば「大チョンボ(ルール違反)」をしているようなものです。
なので「売買したのに登記しないの?へーそうなんだ?別にやらなくても良いけど大チョンボだからどうなっても知らないよ?」と国は言っているのです。
不動産売買においては事実上強制というところでしょうか。
しかし、不動産「相続」について言えばデメリットのない時代が続いたのです。
義務でもないデメリットもない、つまりわざわざ税金払ってまで登記なんていいや!なんて人が続出したことがこの問題の話の発端となります。
なお、現在の民法では登記をしないとデメリットが生じる場合があるので注意が必要です。こちらも詳しい解説は避けますが具体的には民法第899条の2という問題があります(原文はegov:民法)。
そんな「相続登記はやりたきゃどうぞ」の状態が実に100年ほど続いてしまった結果どうなってしまったか、「所有者がわからない土地」が大量に発生して社会問題化してしまったのです。
例えばAさんが亡くなったとします。Aさんの息子が3人BCDとして、そのまま放置になるといずれBCDさんが亡くなりますよね。BCDさんにそれぞれ相続人が3人ずついるとするとこの時点で9名の相続人が出てしまいます。その9名の方が亡くなったら・・・そうです、いわゆる「ネズミ算式」に増えるというやつです。
相続登記を放置してしまうといずれ相続人が100人を簡単に超えてしまいます。
相続人が100人を超えてしまって何か問題でも?
相続手続を放置してしまった結果として相続人が100人もいて共有状態になった、これ本当にやばいんです。なぜなら共有者全員の承諾がなければ基本的には売ることも大きな工事をすることも重要な事ができなくなります(旧法下において一応の手段はありましたが費用面から現実的ではありませんでした。令和5年度4月の民法改正で是正されます。)。
後継ぎがいて実際に住んでいるのであればまだ良いんです。
現在、社会問題化してしまっているのは「誰も住んでいないうえ誰の土地かわからない」という点にあります。いずれ建物は朽ちてどんどん廃墟となってしまいます。危ないですよね、うかうか周囲を通ることすらままならなくなっています。
この問題についてYouTubeでニュースになっていたので紹介します。本当に深刻な問題です。
土地も建物も不動産の所有者不明問題はいま社会問題となっています。
これを現状のまま放置してしまうと、ますます高齢化が進む現状、間違いなく話はもっと深刻化してしまいます。対策を打たなければ「所有者不明土地」は2040年には720万haなるという試算もなされていました(北海道の9割相当の大きさです。)。
そこで、国はこの「所有者不明問題」に本腰を入れて着手することになったのです。
国がこれから行おうとしているルール変更について
概略だけピックアップすると次のとおりです(詳細はこちら:法務省HP)。
土地利用に関連する民法の規律の見直し(令和5年4月1日改正)
①所有者不明土地管理制度等の創設
②共有者が不明な場合の共有地の利用の円滑化
③長期間経過後の遺産分割の見直し
土地を手放すための制度の創設(令和5年4月27日改正)
④相続土地国庫帰属制度
不動産登記制度の見直し
⑤相続登記の義務化(令和6年4月1日改正)
⑥相続人申告登記制度(令和6年4月1日改正)
⑦住所変更登記の義務化(改正日未定)
このうち本記事にかかる話は⑤です。
次回以降、少々詳しく見ていきましょう。
まとめ
- これまで不動産登記の相続手続は義務ではなかった。
- 所有者不明の不動産が増え過ぎて社会問題化している。
- 国が本腰を入れて対策を講じてきて令和6年から義務になる。