相続登記の料金が無料って知ってます?⑤

相続手続

第5回目のテーマは「長期間相続登記等がされていないことの通知」という制度になります。

平成30年から運用がなされているので、もしかするとこの通知を受け取った人もいるかもしれませんね。ですが「全国一斉に通知をする」ものではなく「随時、通知をする」というものなので、これからこの「通知」が届くかもしれません。
先日の記事の「自分で相続登記をやる」場合に必要な戸籍等が省略できるという大きなメリットもあるので知っていたらお得という制度だと言えるでしょう。
相続登記で必要な戸籍等を全部収集したら5000円前後は必ずかかってしまいます。また、民法の家族法の知識のほか戸籍制度にも精通する必要があるので、詳しくない方についても便利だと思います。

それでは具体的に「長期間相続登記等がされていないことの通知」という制度について見ていきましょう。

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長期間相続登記等がされていないことの通知ってなに?

シリーズでずっとお伝えしている通り、所有者不明の不動産というものが現在社会問題化しています。
建物は朽ち果てて周囲をうかうか通ることもできません。その子孫としても相続人が100人を超えてしまうなどして「どう手続を進めれば良いかわからない」という事態にまで陥ってしまっています。

そこで国が本腰を入れて現在進行形でなんとかしようと法整備を行っており、その1つがこの「長期間相続登記等がされていないことの通知」ということになります。
この点について法務省公式YouTubeチャンネルにて概要の説明がなされています。

MOJchannel(2022/12/02)

動画を元に制度概略をフローチャートにしてみると以下のようになります。

①土地の所有者が亡くなっているのに相続登記がされていない。
現在社会問題化している話ですね。
多くの不動産が相続登記をなされずに放置されてしまっています。
②判明次第、随時「調査」や「通知」を行っていく。
全国一斉になされるわけではなく、各自治体がそれぞれ動いて本制度を運用していくようです。ですので、これから「通知」が届く場合もあると思います。
③戸籍調査を行って法定相続人を割り出す。
後述しますが法律の定めにしっかり基づいて調査が行われる流れになります。
④法定相続人の1人に「通知」を出す。
ここで出される通知が「長期間相続登記等がされていないことの通知」というものです。具体的な内容は後述します。
⑤戸籍等の収集なく「法定相続人情報」を使って相続登記ができる。
これが本当に便利な制度だと思います。民法や戸籍法の知識がないと正確な法定相続人を割り出すことは難しいです。それを国がやってくれたうえ、相続登記に必要な戸籍を収集する必要もなくなります(無料)。

まずは「通知」がどんなものか見てみましょう。

長期間相続登記等がされていないことの通知ってなに?

一般論として行政は法律の定めがないと動くことはできません。
小中学校の教科書にも記載されてそうですが、「三権分立」というものです。
今回ご紹介している制度についても根拠条文もすでに制定されています。
令和5年3月時点での法律は以下のようになっています。

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法
(定義)
第二条
 この法律において「所有者不明土地」とは、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいう。
 この法律において「特定登記未了土地」とは、所有権の登記名義人の死亡後に相続登記等(相続による所有権の移転の登記その他の所有権の登記をいう。以下同じ。)がされていない土地であって、土地収用法第三条各号に掲げるものに関する事業(第二十七条第一項及び第四十三条第一項において「収用適格事業」という。)を実施しようとする区域の適切な選定その他の公共の利益となる事業の円滑な遂行を図るため当該土地の所有権の登記名義人となり得る者を探索する必要があるものをいう。
第二節 特定登記未了土地の相続登記等に関する不動産登記法の特例
第四十四条
 登記官は、起業者その他の公共の利益となる事業を実施しようとする者からの求めに応じ、当該事業を実施しようとする区域内の土地につきその所有権の登記名義人に係る死亡の事実の有無を調査した場合において、当該土地が特定登記未了土地に該当し、かつ、当該土地につきその所有権の登記名義人の死亡後十年以上三十年以内において政令で定める期間を超えて相続登記等がされていないと認めるときは、当該土地の所有権の登記名義人となり得る者を探索した上、職権で、所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記等がされていない土地である旨その他当該探索の結果を確認するために必要な事項として法務省令で定めるものをその所有権の登記に付記することができる。
 登記官は、前項の規定による探索により当該土地の所有権の登記名義人となり得る者を知ったときは、その者に対し、当該土地についての相続登記等の申請を勧告することができる。この場合において、登記官は、相当でないと認めるときを除き、相続登記等を申請するために必要な情報を併せて通知するものとする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=430AC0000000049

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法に規定する不動産登記法の特例に関する省令
(付記登記)
第二条
 法第四十四条第一項の事項の登記は、付記登記によってするものとする。
(登記の手続等)
第三条
 登記官は、職権で法第四十四条第一項の事項の登記をしようとするときは、職権付記登記事件簿に登記の目的、立件の年月日及び立件の際に付した番号並びに不動産所在事項を記録するものとする。
2 法第四十四条第一項の法務省令で定める事項は、第一条第二項第五号及び第六号に規定する事項とする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=430M60000010028

「こんなこと勝手にやっていいの?」と疑問に思う方のために一応の紹介でした。
要するに根拠となる法律が既にあって行政は動いているんだよってことが理解できれば十分です。

制度の流れとしてはおよそ前述のフロー図の通りです。
「ずっと相続登記が放置されている土地」が判明したとき、戸籍調査を行って相続人を割り出します。まずは「この土地、放置されているよ」って登記官が登記簿に書きます(同法第44条第1項)。
先ほど紹介したYouTube法務省公式チャンネルのでも紹介されていましたが、具体的に登記簿に記載される内容の一例としてはこのようなものになります。
「通知」を受け取ってから、具体的に登記簿を取得すると(1通600円ほどです)このように書かれているはずです。

平成30年11月15日付法務省民二第612号より引用

そして、判明した法定相続人のうちの1人に対して「お願いだから相続登記してよ、サービスするからさぁ」と通知するのです(同法第44条第2項)。
この通知が「長期間相続登記等がされていないことの通知」と呼ばれるものになります。
素晴らしく長い素敵なネーミングですね、流石としか言いようがありません。
・・・法律のネーミング、なんとかなりませんかね。
この手のわかりにくいものが多くて枚挙に暇がありません。

さて、具体的にどんな書面が届くのか、これも知っておく必要がありますので紹介しておきます。
福岡法務局の解説がわかりやすいと思いました。
※不動産登記には管轄があって、所在地の法務局です。具体的なお問い合わせ先は福岡法務局とは限らないのでご注意ください。
※お問い合わせ先の混乱がないよう、一部を墨塗りさせて頂きました。あくまでもサンプルです。

福岡法務局-「長期間相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)」について(更新日:2023年1月16日)

なお、現在ただいま「高齢者をピンポイントで狙った詐欺・強盗」が多発しています。
この通知が届いたとしても、本当に法務局からの通知なのか必ず確認してください。
通知に記載してある番号からそもそも詐欺である可能性も否定はできないので、管轄法務局の問い合わせ先にまずは電話で通知が本物かどうか確認してみるのが良いと思います。
全国の管轄法務局の一覧はこちらになります(法務省ホームページ)。
我々プロに見せても良いですが、法務局に確認を取るのが一番でしょう。

法定相続人情報ってなに?

そしてこの通知を持って法務局に行けば「法定相続人情報」という書類を発行してもらうことができます。発行窓口は全国各地の法務局(要するに最寄りの法務局)ですし、なにより手数料が無料となっています。
先日の記事でお伝えした「戸籍等」の収集が不要になるので、相続登記に活用すれば本当に便利な手続であると思います。
一般論として相続登記には次のような書類が必要になりますが、そのうち「戸籍関係」が全て不要となります。

相続登記に必要な書類(一般論)

添付書類
登記原因証明情報
 →遺言書、遺産分割協議書等(必要なケースのみ)→従前どおり必要
 →被相続人、相続人関係の戸籍関係(常に必要)→本制度により省略可能
住所証明情報
 →住民票など(常に必要)→従前どおり必要

この「法定相続人情報」という書類の発行手続については法務省のホームページに記載があります。ちなみに次のような書類を書いて出すことになります。
よくわからなければ前述の「長期間相続登記等がされていないことの通知」をそのまま持って最寄りの法務局に行けば良いと思います。
なお、「本人確認情報」が必要になるのでその点もご準備ください。
具体的には運転免許証、マイナンバーカード、住民票の写し等です。

法定相続人情報を出力した書面の提供依頼書(法務省HPより引用)

そしてこの申請書を出せば「法定相続人情報」という書類を発行してもらうことができ、それを相続登記の手続に利用できるということになります。
具体的には先ほど紹介したYouTube法務省公式チャンネルの記載がわかりやすいので引用します。

YouTube法務省公式チャンネルより引用(2022/12/02)

要するに、所在地不明土地が判明して、それを解消するために法定相続人を探したのです。
その探した際に情報を持っているので相続手続に活用できるよ、ということでしょう。

まとめ

  • 長期間相続登記等がされていないことの通知というものが届く場合がある。
  • この通知が届いたらまずは法務局に電話をして確認してみる。
  • この制度を活用すれば戸籍関係の書類を省略できるのでお得。

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