先日の記事の続きになります。
今回のテーマは「相続登記の義務化」「無料の範囲」などについてまとめてみました。
まずは義務となってしまう相続登記の制度改正の概要について見ていきましょう。
不動産の相続登記の義務化について
相続登記とは、簡単に言えば不動産を「持っている人」が亡くなったときに「不動産の名義を書き換える」ことです。
先日の記事のとおり、これまで相続登記は義務じゃありませんでした。
それが令和6年4月1日より「義務になる」ということです。
正確に表現すると、
「不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内」
とされています。
また、例えばご自身の亡くなった父や祖父が所有していた不動産を、今現在仮にそのまま名義変更をせずに10年も20年も放置されていたとしたら、同様に改正から3年以内に相続登記をしなければ罰則の対象となり得ます。
具体的にいくらなのかと言えば、10万円以下の過料とされています。
これは正確なところ懲役や罰金といった犯罪へのペナルティである刑事罰とは別物で、秩序罰という類型に分類されます。秩序罰である過料は行政上の軽微な義務違反に対する制裁であると一般論として説明されるところです。
例えば、正当理由なく転入日から14日以内に転入届を出さなかったら(住民票を移す手続)5万円以下の過料とされていますが(住民基本台帳法第52条第2項、第22条)、この場合に逮捕されたり刑事裁判になったりって常識的にもおかしいですよね。だって住民票を移す手続忘れちゃってただけですよ?それと同じ事で、相続登記の義務違反があったからと言って「前科」がつくわけではありません。
とは言っても国から「10万円ペナルティとして払え!」と言われる可能性があります。
できることなら回避すべきでしょう。
一応、正当理由があれば回避の余地がありそうですが、どの程度の立証が必要なのか等、まだ施行前なので運用については不透明です(運用についての細かいルールは割と直前に決まる場合も多いです)。
おそらくですが、よほどの事情がなければ難しくなるのではないかなと個人的には見ています。
それくらい国が力をかなり入れている一大プロジェクトとして動いている感があります。
不動産登記法(令和6年4月1日改正予定)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123_20240401
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
(過料)第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
相続登記の免税措置について
義務ではなかった相続登記を突然「義務にする」と国が一方的に言い出したわけですから、流石のお国も後ろめたさがあるのでしょう。
この点について多少の配慮がされています。
まず、不動産の相続登記を行うには税金がかかります、登録料みたいなものです。
これを登録免許税と言いますが、
登録免許税法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=342AC0000000035
別表第一
一(二)イ
不動産価額 × 4/1000
とされています。
ここでいう不動産価額とは市区町村役所の課税窓口などが発行する評価証明書等に記載されている金額と実務的にはされています。固定資産税の課税通知書などにも記載がされているのではないかと思います。
ある不動産が100万円のとき4000円、1000万円なら4万円となります。
市街地の宅地など坪単価が高いところであれば高額となってしまいますが、登録免許税という税金なので非課税などの特例がなければやむなしです。
ちなみにこれ「相続税」とは別物なのでご注意ください。あくまでも登記をするために国へ支払う登録料みたいなものです。
従前、この相続登記について10万円以下は非課税とされていたのですが、それが100万円以下に適用範囲が広がったというわけです(租税特別措置法第84条の2の3第2項)。
租税特別措置法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332AC0000000026_20230101
(相続に係る所有権の移転登記等の免税)
第八十四条の二の三 個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成三十年四月一日から令和七年三月三十一日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。
2 個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の施行の日から令和七年三月三十一日までの間に、土地について所有権の保存の登記(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第二条第十号に規定する表題部所有者の相続人が受けるものに限る。)又は相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、これらの登記に係る登録免許税法第十条第一項の課税標準たる不動産の価額が百万円以下であるときは、これらの登記については、登録免許税を課さない。
適用範囲について詳しい解釈はこちらを参照してください(法務局HP)。
この登録免許税の免税について、およそのところポイントは以下のようになります。
- 土地についての相続(相続人への遺贈)による登記の話であること。
- 100万円以下の土地の話であること。
- 令和7年(2025年)3月31日までの間であること。
法務省の方でも大々的にパンフレットを作成していましたので引用します。

ただし、この情報は令和5年3月の執筆時点での情報となります。
今のところ「令和7年(2025)までが免税期間」とされていますが、状況によってはまた更に延長ということになる可能性もなくはありません。
例えば住宅用家屋や宅地売買の特例のように(租税特別措置法第72条の2等)、この手の特例措置は更新されて伸びる場合も多い傾向にあるとは言えます。
ですが、必ずしも「令和7年(2025)から伸びる」との断定はできません。
そのまま期間満了でお得期間が終了ということもあり得ます。
少なくとも、令和7年(2025)3月31日の期間満了ギリギリになると法務局の申請窓口、特に登記相談窓口が相当込み合うことが想定されます。
ご自身で登記の申請を行うならこの法務局事前相談(無料)をやるべきだと私は思いますが、とんでもない期間待たされる可能性があります。
なんだ100万円で4000円なら大したことないな?いえいえ、これ1筆の話ですから。
10筆で4万円、20筆なら8万円も安くなるんですよ。
浮いたお金で素敵なレストランとか下手すりゃ旅行とか夫婦で行けますって。
しかも相続登記は「必ずやらねば10万円の過料」となり、いずれやらないといけないんです。
どうせなら無料のお得な期間内にやるべきだと思います。
さて、次回は「相続登記は難しそうだからプロに依頼するべきか?」というテーマで話をしていきたいと思います。
まとめ
- 相続登記は3年以内にしなければいけなくなる。
- 行わなかった場合には10万円のペナルティがある。
- やってない相続登記があるのなら令和7年まで(執筆時の時点)にやるとお得。