東京都台東区の事例をもとに、「みんなやっている」「昔からやっている」という事情が、許認可上どのように評価されるのかを特定行政書士が解説します。
事件の概要
東京・上野には、「アメ横」と呼ばれる商店街があります。
アメ横は、上野駅と御徒町駅の間に位置し、多くの物販店や飲食店が立ち並ぶ、東京を代表する商店街の一つです。
2026年7月、このアメ横周辺で、歩道上にテーブルや椅子を並べて営業していた飲食店の経営者らが、道路交通法違反の疑いで書類送検されたと報道されました。
報道によれば、飲食店は、道路使用許可を受けず、通行の妨げとなる形で歩道上にテーブルや椅子を並べていた疑いが持たれています。また、経営者らは任意の調べに対し、「周りのお店もやっていたから、自分もやってよいと思った」という趣旨の説明をしていると報じられています。
なお、執筆時点(2026年7月16日)では書類送検という、警察が捜査書類を検察庁へ送る手続段階であるため、この段階で有罪が確定したわけではありません。
【参考】
(東京新聞/2026年7月15日 10時03分)アメ横周辺の路上にテーブルやいす…飲食店主ら書類送検 道路不正利用疑い 常態化に苦情相次ぎ
(TBS NEWS DIG/2026年7月15日(水) 16:52)38回の指導・警告も改善されず 上野・アメ横で路上営業か 道交法違反の疑いで書類送検 通行の妨げになるかたちでテーブルなど並べ
(TBS NEWS DIG/2026年7月15日(水) 09:30)【独自】度重なる警告も改善されず…上野“アメ横”で歩道にテーブルなど並べ交通を妨げたとして飲食店を書類送検 警視庁上野署
しかしながら、本件は、飲食店に限らず、多くの事業者が陥りやすい次のような認識について考えるきっかけになります。
- 周りの店も同じことをしている
- 昔からこの方法で営業している
- 警察や役所から何も言われていない
- 少しくらい大丈夫だろう
これらの事情は、それだけで営業行為が適法であることを意味するのでしょうか。
店の前は、当然に営業スペースになるわけではない
飲食店を営業するためには、管轄保健所から飲食店営業許可を受けるほか、建物の規模や営業形態に応じて、消防設備の設置や管轄消防署への届出など各種の準備を行う必要があります。
しかし、飲食店営業許可などの一般的な手続を済ませていたとしても、店の前の歩道を当然に営業スペースとして使えるわけではありません。
まず確認しなければならないのは、テーブルや椅子を置こうとしている場所が「店舗の敷地内なのか」、「公道などの道路上なのか」という点でしょう。
店舗のすぐ前であっても、そこが歩道や道路であれば、原則としては店舗の所有者や賃借人が自由に使用できる場所ではありません。
設置場所が道路である場合には、飲食店営業許可とは別に、道路法や道路交通法の問題が生じます。
問題となる二つの許可
本件でいえば、主に2つの手続を吟味する必要があります。
【道路占用許可】
道路法 | e-Gov 法令検索
(道路の占用の許可)
第三十二条 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物、物件又は施設を設け、継続して道路を使用しようとする場合においては、道路管理者の許可を受けなければならない。
七 前各号に掲げるもののほか、道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある工作物、物件又は施設で政令で定めるもの
(道路の占用の許可基準)
第三十三条 道路管理者は、道路の占用が前条第一項各号のいずれかに該当するものであつて道路の敷地外に余地がないためにやむを得ないものであり、かつ、同条第二項第二号から第七号までに掲げる事項について政令で定める基準に適合する場合に限り、同条第一項又は第三項の許可を与えることができる。
2 次に掲げる工作物、物件又は施設で前項の規定に基づく政令で定める基準に適合するもののための道路の占用については、同項の規定にかかわらず、前条第一項又は第三項の許可を与えることができる。
四 前条第一項第一号又は第四号から第七号までに掲げる工作物、物件又は施設のうち、歩行者の利便の増進に資するものとして政令で定めるもの(以下「歩行者利便増進施設等」という。)で、第四十八条の二十第一項の歩行者利便増進道路(第四十八条の二十一の技術的基準に適合するものに限る。第四十八条の二十三第一項、第三項及び第五項、第四十八条の二十四第一項並びに第四十八条の二十七第二項第二号において同じ。)の区域のうち、道路管理者が歩行者利便増進施設等の適正かつ計画的な設置を誘導するために指定した区域(以下「利便増進誘導区域」という。)内に設けられるもの(道路の機能又は道路交通環境の維持及び向上を図るための清掃その他の措置であつて当該歩行者利便増進施設等の設置に伴い必要となるものが併せて講じられるものに限る。)
道路法施行令 | e-Gov 法令検索
(道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある工作物等)
第七条 法第三十二条第一項第七号の政令で定める工作物、物件又は施設は、次に掲げるものとする。
八 高速自動車国道及び自動車専用道路以外の道路又は法第三十三条第二項第二号に規定する高速自動車国道若しくは自動車専用道路の連結路附属地(以下「特定連結路附属地」という。)に設ける食事施設、購買施設その他これらに類する施設(第十三号に掲げる施設を除く。)でこれらの道路の通行者又は利用者の利便の増進に資するもの
(歩行者利便増進施設等)
第十六条の三 法第三十三条第二項第四号の政令で定める工作物、物件又は施設は、次に掲げるものとする。
四 食事施設、購買施設その他これらに類する施設で歩行者の利便の増進に資するもの
【道路使用許可】
道路交通法 | e-Gov 法令検索
(道路の使用の許可)
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。
三 場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者
そのため、飲食店が道路上にテーブルや椅子を設置する場合には道路法上の占用許可、道路交通法上の使用許可について検討する必要があるでしょう。
【参考】
道路:道路占用制度 – 国土交通省
道路使用許可の概要、申請手続等|警察庁Webサイト
なお、許認可等は行政の判断を伴う手続ですので、申請書を出せば必ず認められるというわけではありません。
本件にあたっては、歩行者や車両の通行を妨げないか?必要な通行幅が確保されているか?緊急車両の通行や避難経路を妨げないか?など様々な要素を総合的に判断するものと解されます。
警視庁ホームページでは次のような説明もされています。
ライフライン等の設置工事、工作物の設置、露店の出店、オープンカフェの設置を伴うイベント等 については、道路使用許可と道路占用許可の両方が必要となる場合があります。
一方で、いわゆる「ほこみち(歩行者利便増進道路制度)」のように緩和的な措置が図られている場合もあります。
道路管理者が歩道内に特例区域を定めることにより、オープンカフェなど通常より柔軟に認めることができます。
ただし、申請したとしても必ず許可を得られる関係にない点は、前述のとおりです。
【参考】
道路:ほこみち – 国土交通省
「みんなやっている」は通用する?
本事例では「周りのお店もやっていたから、自分もやってよいと思った」と経営者らは話したとされています。
実はこの認識、ビジネスの現場においては決して珍しいものではありません。
実際の相談においても、次のような説明をうけることがあります。
- 他のお店もやっています
- 同業者から問題ないと聞きました
- 昔からこの方法で営業しています
- 前の経営者も同じことをしていました
- 今まで役所から注意されたことはありません
しかし、周囲が同じ営業方法を取っているとしても、それぞれが法的に状況が同じとは限りません。
例えば、外観上同じように机や椅子を置いていると見えるとしても、敷地内での設置状況であるとか、正式に許可を受けているなど、その根拠が全く異なる可能性があります。
仮に周囲の店舗もすべて無許可であったとしても、「無許可の店舗が複数存在する」というだけであり、それによって自店の無許可使用が適法になるわけではありません。
「赤信号みんなで渡れば怖くない」という笑い話が某有名芸人の有名漫談の一節にありますが、しかし、許認可実務のうえでは原則的には全くの無関係です。
私たち行政書士は警察や自治体などの行政ではありませんから、取り締まる立場にはありません。
そのため、私はこの問題を説明するときに、自動車の運転の例を挙げることがあります。
友達が無免許運転をしたとしても、それを見て自分も無免許で車の運転をしてよいことにはなりません。
仮にその場で直ちに警察から取り締まりを受けなかったとしても、「たまたま見つかっていない」というだけで、無免許運転という行為が適法になるわけではないからです。
黙認と許認可は別のもの
よく聞く話としては「警察官も店の前を通っているが、何も言われない」、「役所も昔から知っているはずだ」というものです。
しかし、行政機関から直ちに指導や処分を受けていないことと、正式な許認可を受けていることは別です。
行政機関が何故すぐに取り締まりを行わないのか、例えば下記のような事情があると推察されます。
- 違反状態をまだ把握していない
- 現在、事実関係を調査している
- 行政指導として自主的な改善を求めている
- 人員や他の案件との優先順位から直ちに対応していない
これらは、行政機関がその行為を適法と判断したことや、無許可での道路使用を許容したことを意味しません。
行政窓口などで口頭で何も言われなかったことや、長期間指導を受けなかったことは、正式な許可に代わるものではありません。
つまり、黙認されているように見える状態と、法的に許可されている状態は別物であるという理解が必要です。
長期間、無許可状態で営業を続けていた事例で記憶に新しいのが、北海道の動物園事例です。
直接的な原因となったのは、都市計画法違反による無許可開発とされています。
最終的に閉園という運びになりましたが、同動物園は2005年の開園以来、20年ほど運営されていたと思われますが、ある意味で行政はその間「黙認」していたわけです。
そこが行政裁量の恐ろしいところでもありますが、何か重大な問題が生じただとか、住民等の苦情が続いただとか、突然こうして大々的な取り締まりへと舵を切る場合があります。
現在執筆時点では係争中のようですが、結果として、約6700万円の補助金についても交付取消により全額返還を求められ、閉園の運びとなってしまいました。
【参考】
(読売新聞/2026/06/23 07:12)建築物除却命令は「違法で不当」…「ノースサファリ」運営会社が札幌市に取り消し求め不服申し立て
(FNN/2026年7月6日 月曜 午後8:44)【続報】ノースサファリ問題・哺乳類が”5匹”園外に移動したものの…6月末時点で計221匹の動物が園内に_所在地を札幌に移した「北海道アニマルワールド」予定地探しは?
(TBS NEWS DIG/2025年9月30日(火) 17:01)ノースサファリサッポロが閉園 無許可開発問題で20年間続いた営業が終了 延べ200万人が利用…いまだ300以上の動物の移動先に課題
ビジネスにおいて、無許可営業というのは往々にして致命傷となり得るということを、経営者としては理解する必要があります。
まとめ
行政書士として実務に携わっていると、ビジネス経営の現場では、周囲の営業方法が事実上の基準になってしまっている場合を多々見てきています。
- 「みんなやっている」
- 「以前からやっている」
- 「誰にも注意されなかった」
これらの事情が即座に適法だと判断されるとは限りません。
黙認されているように見えても、それは無許可営業が法的に許容されたことを意味しません。
本事例を考えれば、許認可はビジネスにとって致命傷になる場合もあることを忘れてはいけない教訓だといえます。
もっとも、許認可等を取得していたとしても、適法な運営を行うことがあるのは言うまでもありません。
先の自動車運転の例でいえば、これは「赤信号で交差点に進入して良いか?」という全く別レイヤーの問題になります。
今回、アメ横の路上営業をテーマに取り上げましたが、ビジネスの現場においては、法が求める許認可等の取得は勿論のこと、取得後に法が求める適法な運営を行うべきことは重々忘れてはならない教訓だといえるでしょう。
適法性をどこまで追求するかは、究極的には経営判断の範疇です。
しかしながら、甘く見ているとビジネスの即死に繋がる問題ということを忘れてはなりません。


