令和6年1月11日に内閣府により次のような発表がなされました。
「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について
非常に重要な制度な割に内容が専門的なのでざっくり言うと「被災地の方は大変なので各種手続の期限を延ばしてあげるよ」というような話になります。
こちらについて一般の方でも理解できるよう解説をしていきます。
なお、住居等の要件がありますので、詳しくは担当窓口へ必ずお問い合わせください。
① 行政上の権利利益の満了日の延長
令和6年1月11日の内閣府発表によると次のように記載されております。
特定非常災害の被害者が、自動車運転の免許のような有効期限のついた許認可等の行政上の権利利益について、更新等のために必要な手続をとれない場合があることを考慮して、許認可等に係る有効期限を令和6年6月 30 日まで延長することができること。
「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について
※ 延長措置を講ずる具体的な行政上の権利利益、地域、対象者及び延長後の満了日は、可能な限り速やかに各府省等の告示により別途指定。
自動車運転免許で想像すると理解しやすいかと思いますが、様々な許認可は「更新が必要」という仕組みになっている場合があります。
仮に1/10が更新期限だったとしましょう。

上記のように1/10までに更新手続を行えばそのまま許認可を使うことができます。
逆に1/10までに手続を行わなかった場合、厳しいものだと失効してしまう場合もあります。
ところが、本特例により1/10までだった更新期限が6/30まで伸びるという事になります。

ご自身の被災地が対象となっているか、更新するべき許認可がどこまで延長できるかの2点は必ず担当窓口に確認してください。
常に6/30となるとも限らない点には特に注意してください。
なお、上記の内閣府発表をうけ、各省庁等にて詳細が発表されております。
【総務省】
令和6年能登半島地震による災害「特定非常災害」指定について (各種の許認可等(運転免許等)の有効期間の延長などが行われます。)
【国土交通省】
令和6年能登半島地震における被害者の有する許可等の有効期間の延長について
被災地に取り残された石川県外ナンバー車両等の自動車検査証の有効期間を伸長します(北陸信越運輸局)
【特許庁】
令和6年(2024年)能登半島地震により影響を受けた方への特別な措置について
② 期限内に履行されなかった行政上の義務の履行の免責
令和6年1月11日の内閣府発表によると次のように記載されております。
事業報告書の提出、薬局の休廃止等の届出のような履行期限のある法令上の義務が、特定非常災害により本来の履行期限までに履行されなかった場合であっても令和6年4月 30 日までに履行された場合には、行政上及び刑事上の責任を問われないとすること。
「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について
事業報告書の提出、薬局の休廃止等の届出のような履行期限のある法令上の義務が、特定非常災害により本来の履行期限までに履行されなかった場合であっても令和6年4月 30 日までに履行された場合には、行政上及び刑事上の責任を問われないとすること。
基本的には前述①で説明した話と似たような話です。
例えば1/10が提出期限だった場合に、それが4/30まで延長されるという事になります。

この点について薬局の休廃止の話が出ているのでこれを具体的に見てみると次のように規定がなされております。
(休廃止等の届出)
第十条 薬局開設者は、その薬局を廃止し、休止し、若しくは休止した薬局を再開したとき、又はその薬局の管理者その他厚生労働省令で定める事項を変更したときは、三十日以内に、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局の所在地の都道府県知事にその旨を届け出なければならない。
(2項以下省略)第八十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(e-gov)
一 第十条第一項(第三十八条、第四十条第一項及び第二項並びに第四十条の七第一項において準用する場合を含む。)又は第二項(第三十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
(2号以下省略)
このように何か変更事項が生じた場合には「一定期間内に届出しろ、さもなくば罰金だ!」というような法体系は珍しくありません。
提出期限の延長とはいえ、各種許認可を取得している事業者様はご注意ください。
なお、上記の内閣府発表をうけ、各省庁等にて詳細が発表されております。
【法務省】
令和6年能登半島地震により登記の申請をすべき期間に登記の申請ができなかった場合について
③ 法人の破産手続開始の決定の特例
令和6年1月11日の内閣府発表によると次のように記載されております。
特定非常災害により債務超過となった法人については、債権者から破産手続開始の申立てがされたとしても、支払不能等の場合を除き、令和7年 12 月 31 日までは破産手続開始の決定をすることができないこと。
「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について
破産という手続について知る必要がありますが、破産の申立は次のように規定されています。
(破産手続開始の申立て)
第十八条 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。(破産手続開始の原因)
破産法(e-gov)
第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
債権者というのは簡単に言えば「お金を貸した人」、債務者というのは「お金を借りた人」と考えればわかりやすいと思います。
常にではありませんが、「お金を貸した人」によって「お金を借りた人」が破産だ!と手続を進めることができますが、その場合の話です。
今回の震災が原因なのであれば令和7年末まではできません、という事ですね。
④ 相続の承認又は放棄をすべき期間の特例
令和6年1月11日の内閣府発表によると次のように記載されております。
特定非常災害発生日(令和6年1月1日)において、令和6年能登半島地震に際し災害救助法が適用された区域に住所を有していた相続人については、相続の承認又は放棄をすべき期間を令和6年9月 30 日まで伸長すること。
「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について
相続放棄・限定承認という手続の存在をまず知る必要があります。
(単純承認の効力)
民法(e-gov)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(2項省略)
(限定承認の方式)
第九百二十四条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続でのちょっと特殊な手続ではあるのですが、限定承認・相続放棄というのは「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に家庭裁判所で手続をしなければなりません。
この「知った時から3ヶ月」というのを熟慮期間と言います。
例えば12/10に震災を挟んで亡くなった人の相続手続を考えてみると、この限定承認・相続放棄をしたいのであればそこから熟慮期間の3ヶ月以内という事になってしまいます。
震災で大変な思いをしているなか、これは酷かろうという話ですね。
これが9/30までは手続ができる、という事になります。

なお、上記の内閣府発表をうけ、各省庁等にて詳細が発表されております。
【法務省】
令和6年能登半島地震の被災者である相続人の方々へ ~政令により延長された相続放棄等の熟慮期間は、令和6年9月30日までです。~
【裁判所】
令和6年能登半島地震による災害の対象地域に住所を有していた方が相続人となる場合の相続の放棄等をすることができる期間(熟慮期間)の伸長の特例について
⑤ 民事調停法による調停の申立ての手数料の特例
令和6年1月11日の内閣府発表によると次のように記載されております。
特特定非常災害発生日において、令和6年能登半島地震に際し災害救助法が適用された区域に住所等を有していた方が、今般の災害に起因する民事に関する紛争について、令和8年 12 月 31 日までの間に民事調停法による調停の申立てをする場合には、申立手数料を不要とすること。
「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について
まずは民事調停という手続を知る必要がありますが、簡単に言えば争いが生じた場合に裁判制度を利用するのではなく、話し合いで解決しようというものです(詳細はこちら)。
この民事調停手続には手数料が必要ですが、それが不要という事になります。
なお、上記の内閣府発表をうけ、各省庁等にて詳細が発表されております。
【法務省】
令和6年能登半島地震により借金等の返済が困難となった被災者の方へ
民事調停の申立手数料の特例措置
【裁判所】
令和6年能登半島地震による災害に起因する民事に関する紛争につき、民事調停の申立てをする場合の申立手数料を納めることを要しない特例について

