法哲学対話「悪法も法か」登壇(補足解説)

news

東京会の会報誌「行政書士とうきょう」の10月号に掲載されましたので告知となります。

「行政書士とうきょう(2025_10)」より引用

告知内容

※開催終了につき削除いたしました。

法哲学対話とは?

法哲学対話とは、「当たり前」を問い直しながら、共に考えるための哲学的営みです。
そこでは、知識や立場の上下を離れ、参加者が互いに聞き合い、根拠や前提を問い、意味や価値を確かめ合います。
容易に答えの出ない問い「問いのまま」保ち続ける姿勢を重んじ、いわば「宙づりの思考」に耐えながら、より良い理解へと歩む共同探求の場ともいえます。
講師役(=進行役)もまた導く者ではなく、一人の探求者として対話に加わります。
このような「ソクラテス的状況」において、法の背後にある人間・社会・正義のあり方を見つめ直すことが、法哲学対話の本質といえます。

近年、「経営哲学とは?」や「行政哲学とは?」、「人生哲学とは?」といった文脈で度々「哲学」という単語を目にします。
自分自身の理念(=中心に据えるべきもの)」を磨くにあたって、この哲学(=考え抜くこと)」は非常に重要な要素だと思います。
特に最近は「生成AI」が台頭してきたこともあり、「生成AIに任せて良いこと」「人間が行うべきこと」というのが徐々に明確に分離してきたように思えます。
こういう時代だからこそ、「哲学」が一本入っていると何事にも「芯」が通るのではないでしょうか。
「考え抜く土壌をつくる」、おそらくそれがこの法哲学対話に私が参加している理由です。

講義の流れなど

講師(=報告者・進行役)が「課題図書」を指定し、一応読んできている前提で1時間ほど解説を行います。
その解説によるテーマを前提としながら、2時間程度、参加者全員でテーマを議論します。
毎回「課題図書」が提示されますので、ちょっとした読書感想文の宿題のような感じでしょうか。
これまで「法教育」、「禁忌の問い」、「マルクス」、「ヒューム」・・・といった感じで多岐に渡るテーマで法哲学対話が開催されています。
あまり「法哲学って難しそうだなぁ」とか「ソクラテスってよく知らないしなぁ」とか「実務に関係ないしなぁ」っと悩むのではなく、純粋に面白そうと感じるかどうか?ではないかと思います。

【課題図書】
ソクラテスの弁明・クリトン
著:プラトン
訳:三嶋輝夫・田中享英
発:講談社
Amazonへのリンクはこちら

今回、たまたま講師(=報告者・進行役)を拝命いたしましたが、私自身、哲学分野は素人も良いところです。
登壇にあたって10冊程度色々読んではおりますが、受講サイドとしてはそこまでの気合は不要です。
ひと通り課題図書を読んで、自分なりの考えをまとめれば完璧ではないかと。
「受講して面白かった」程度には、講義できるよう準備しますので、是非とも気楽にご参加ください。

特に「悪法も法か」という問いに対しては現行法についてどちらかに寄っているわけですが、
そういう事情も関係なしに「自分はどう考えるのか?」や「他はどう考えるのか?」の共有が大事です。
要するに正解・不正解は本講座においてはありません。

ソクラテスと言えば「無知の知」であるとか「正しく生きること」であるとか有名ですが、果たしてそれは本当か?そんな話からできればなと思っています。

登壇を終えて(2025/11/16加筆)

行政書士の先生方、出版社の方など多数の方にご参加いただきまして、誠にありがとうございました。
お忙しいところお時間を頂き感謝しかありません。

さて、登壇で詳しく触れることができなかった部分について加筆しておきます。

自然法論vs法実証主義の議論の実益

後半取り上げた悪法論は、著者プラトンのAD400年ごろから現代に至るまでの伝統的な論争になります。
本登壇にあたっては「『法理学講義』著:田中成明(有斐閣)」を参考にさせて頂きました。

自然法論法実証主義
悪法は法にあらず悪法もまた法なり
道徳や正義に反する法は法でないとする立場法を社会的事実として捉え、道徳や正義とは区別して分析する立場
伝統的な論争『悪法も法か?』

現代においては様々な状況が多岐に絡み合っていますから、「どちらかが正しい」という帰結にはならないと私は評価しています。
では議論の実益が何か?というと「不当や違法に対してどう抵抗・不服従を行うか?」というところです。
この「抵抗・不服従」につき今回の登壇においてはレジュメで下記のように整理しています。

自然法論的法実証主義的
≒外在的な修正≒内在的な修正
正義に反するなら不服従の正当化が可。救済には公然性、非暴力性、最終手段性等の外在的修正が原則。有効に成立した法には原則服従。救済には制度改革や違憲審査等の内在的修正が原則。
抵抗・不服従のアプローチ

現代に悪法はあるのか?

さて、「悪法」は過去の遺物なのかというと、そうでもありません。
法とは人間の手で作り出すものであるし、人間がそれを実施するものであるからです。
即ち、これを「どのように修正できるか?」が権利擁護の観点から重要でないかと私は考えています。

今回いくつか準備した事例のうち、こちらを補足的にご紹介しておきます。

ハンセン病国家賠償請求訴訟熊本地裁判決

本件は、長年にわたるハンセン病隔離政策が、患者本人のみならず家族にも深刻な被害を及ぼしたとして提起された国家賠償請求訴訟です。
裁判所は、国の隔離政策と家族への被害との因果関係を認定し、国に対して賠償を命じています。
詳細な判決理由(約500ページ)についてはここでは触れませんが、下記の資料で理解が深まると思います。
特に青井未帆先生の論文は、問題の構造を整理しており非常にわかりやすい解説です。

【各種リンク】
平成28(ワ)109熊本地方裁判所令和元年6月28日(裁判所)
ハンセン病家族国家賠償請求訴訟の判決受入れに当たっての内閣総理大臣談話・政府声明(法務省)
ハンセン病に関する教育の実施について(文科省)
ハンセン病に関する情報ページ(厚労省)
判例研究「ハンセン病国家賠償請求訴訟熊本地裁判決」著:青井未帆(信州大学HP・論文)
ハンセン病患者の家族も被害、国に賠償命令 熊本地裁(日本経済新聞2019年6月28日 14:02 (2019年6月28日 17:54更新))
菊池事件「本人に深くおわび」 高市首相、過去のハンセン病談話継承 参院予算委(熊本日日新聞 2025年11月14日 19:34)

結論としては、国賠は認められ当時の安倍首相により談話が発表され「早期解決を目指す」と謝罪とともに明記されました。
一見すると「しっかり国は反省して賠償が認定され、良かった良かった」と思えるかもしれません。
しかし、私にはそうは見えません。
問題なのは、政府声明の数々の否認にあります。
これでは前記「外在的修正」にせよ「内在的修正」せよまともに機能するわけがありません。

悪法論の観点からの市民の権利擁護

悪法論において重要なのは、「自然法論・法実証主義いずれの立場か?」ではなく、
「不服従という市民の権利擁護をいかに実現するか?」という点にあると私は考えています。
行政という権力構造の範囲内にて日常的に業務を行う法律専門職こそ、「法は常に正ではない」という前提と、現代においても外在的・内在的修正がいかに脆弱なのか、という認識が不可欠ではないかと強く感じます。

2026年1月より改正行政書士法が施行され、審査請求という不服申立制度で我々の職域が大幅に拡大されます。
行訴法の対象は「違法」に限定されますが、行審法は「違法」のみならず「不当」も対象とされ、この点で行政訴訟との大きな相違点となります。
こうした意味でも「悪法論」は今後ますます重要になる観点だといえるでしょう。

行審法の対象

(目的等)
第一条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
(e-gov)行政不服審査法

改正行政書士法(令和8年1月施行)

第一条の四 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
2 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。
(e-gov)行政書士法

PAGE TOP