家系図に使う戸籍がなくなるってほんと?

家系図家系図

全ての家系図作成会社が最初にすることをご存じでしょうか。
聡明な皆様はお気付きでしょうが、戸籍の収集となります。
戸籍がほっとくと無くなっちゃうよ、一族として家系図作れなくなっちゃうよ。
そんなお話です。
しかしそもそも戸籍とはなんぞや、そこからお話をせねばなりません。
少々長くなりますが、お暇な方はお付き合いください。

戸籍ってなに?

戸籍とは非常に緻密に、そして正確に人生の転換点が記された公文書です。
戸籍の記載事項は法律によって定められておりますが、およそのところ「産まれて」「結婚して」「出産して」「離婚して」「亡くなる」といった私たちの人生にとって非常に大きな出来事がほぼ確実に記載されるのです。
「ほぼ」と申し上げたのは無戸籍など特殊な例外があるからです。
今回の話の本筋と違うのでまたの機会にします(興味ある方は法務省HPへ)。

せっかくなので似たような用語をついでに整理してみましょうか。

住民票(じゅうみんひょう)

戸籍と記載事項が似ているのでなかなかわかりにくいですが、まずは目的が違います。住民票は「そこに確かに住んでいるな」ってことを証明する公文書です。戸籍は「確かにこの人はあの人とこのような身分関係だね」ってことを証明する公文書です。ですから、基本的には住所を証明したいときには住民票を持っていく(住民票の「住所」と戸籍の「本籍地」は全く別物です。)、相続で相続関係を証明したいときには戸籍を持っていく(住民票ではそこを証明できない仕組みになっています)、といった具合に目的も用途も違います。
詳細な解説が千葉県の芝山町HPに掲載されていましたので参考まで。

戸籍謄本(こせきとうほん)

文字通り書いてあること「全部」を出力した戸籍です。謄本とは「全部をコピーした」みたいな意味合いです。今回のように色々な公文書で“原本”は役所にあると考える場合があります。ですので、我々が貰える戸籍というのは“役所にある原本をコピーしたもの”なんですね。住民票なども法律的に正しくは「住民票の写し」と呼びます。ちなみに私がお客様に伝えるときは「住民票を持ってきてください」と言います。「住民票の写しを持ってきてください」というと「写し=印刷」と受け取って稀にコピーを持ってくる方がいらっしゃいます。
なお、大昔は戸籍を手書きしていましたが平成6年あたりで役所ごとに随時コンピューター化され、そのコンピューター化された戸籍を全て出力したものを「全部事項証明書」と呼ぶ場合もあります。何が書いてあるかというと、文字通りその時代の登場人物「全て」です。なんだか抽象的な表現になりますね、後ほど詳しく説明します。
詳細な解説が広島県の広島市HPに掲載されていましたので参考まで。

戸籍抄本(こせきしょうほん)

こちらは戸籍の「一部分だけ」を出力した書類です。戸籍謄本というのは家族の人数がとんでもなく多ければ、場合によってはとんでもない分厚さになる場合もあります。そういう場合に「Aさんだけの話をピックアップした書類にしてよ」って需要に応じたんですね。今現在の法律では1世帯に1戸籍のみですが、古い時代は何世帯も普通に同じ戸籍に入っていた年代も存在していたのです。わかりやすく戸籍を見たい国民と、手書きを極力減らして業務の効率化を図りたい行政の利害関係が一致した!というわけです。ちなみにコンピューター化された戸籍の一部だけ出力した書類のことを「一部事項証明書」という言い方をします。

まとめると次のような関係にあります。

  • 戸籍謄本=戸籍の全部事項証明書
  • 戸籍抄本=戸籍の一部事項証明書

家系図作成で最初に何をする?

前述のとおり戸籍は緻密に正確にリンクが張り巡らされた公文書です。
この緻密なリンク付けを利用して「全ての戸籍を集める」ことが家系図作成の第一歩となります。
勿論民法の家族法の知識が大前提としてほんの少しだけ必要ではあるのですが、それ以上に、戸籍制度の歴史に精通する必要があります。
「Aさんの戸籍が複数種類あった」という状況は珍しくはないです。

色々ある戸籍の種類

現在、日本で取得できる最も古い戸籍は「明治19年式」と呼ばれるものになります。
正確には明治5年の壬申戸籍というものが最古で保管はしているようですが、諸事情により取得することができません。
当時は当然全てが手書きでしたから、戸籍法の改正に伴って「帳簿の欄」が新しくなるとその度に「帳簿」そのものを作り直しました。
要するに用紙が変わったら、全てを書き写したうえでその都度差し替えていたのです。
令和5年現在、取得できる戸籍の種類は次のとおりです。

  • 明治19年式戸籍(明治19年12月1日施行)
  • 明治31年式戸籍(明治31年7月16日施行)
  • 大正4年式戸籍(大正4年1月1日施行)
  • 現行戸籍(昭和23年1月1日施行)
  • コンピューター戸籍(平成6年12月1日施行)

例えば最古の戸籍に出生の記載があるAさんの戸籍を考えてみましょう。

明治19年式戸籍(明治19年12月1日施行)
①Aさんの出生の記載がある。
明治31年式戸籍(明治31年7月16日施行)
②戸籍法が改正されて新しい紙面になり新しい紙に差し替え。
大正4年式戸籍(大正4年1月1日施行)
③戸籍法が改正されて新しい紙面になり新しい紙に差し替え。
現行戸籍(昭和23年1月1日施行)
④戸籍法が改正されて新しい紙面になり新しい紙に差し替え。
昭和23年式
コンピューター戸籍(平成6年12月1日施行)
⑤記載内容は基本的に同じだが紙とデータの差し替え。ここから横書き。
平成6年式
現在に至る。
⑥Aさん大往生。
平成6年式

この時系列であればAさんの戸籍は「最低でも」5種類存在することになります。本籍地の移転であるとか婚姻による入籍であるとか、現実にはもっとたくさんあるかもしれません。
これは教科書事例ではなく、明治19年式とは西暦1886年のもので明治30年の西暦1897年生まれで記載され、平成9年の西暦1997年に亡くなったと考えれば十分にあり得る話です。

このように戸籍に基づいて「世代を遡る旅」が家系図作成の第一歩となります。

上記の話をまとめると、上手くいくと下記のようにAさん~Jさんまでの世代が戸籍だけで辿れます。
1820年に産まれたAさんからその末裔の2010年に産まれたJさんまでの家系となります。
BさんはAさんの子、CさんはBさんの子・・・という関係だとお考えください。
なお、私のご先祖様の生年月日を改変して作成したので教科書事例というわけではありません。
机上の空論ではなく現実にもあり得る事例です。

戸籍事例A~J

ただし、これは「上手くいった」場合の話になってしまいます。
非常に遺憾ですが、戸籍等の公文書は現行法においてはいずれ消失してしまうのです。

前述のとおり、戸籍による「世代を辿る旅」が家系図作成の第一歩です。
戸籍以外から家系を辿ろうとするのなら口伝であるとか、菩提寺の過去帳であるとか、「戸籍ほど緻密に正確にリンクが張られていない確実ではない資料に頼る以外、手段がなくなります。

戸籍の消失とは?

令和5年現在、戸籍は永久に役所で保管してくれている書物ではありません。
いくつかの原因から文字通りこの世から消えてしまうことがあるのです。
現在のようなコンピューターで管理しているものはさておき、古いものは全て「紙」で管理をしていましたから、前述のとおり、紙の戸籍が消失したらそこで家系図作成は基本的には全てがストップです。

それでは実際に消失してしまって二度とご先祖様が辿れなくなる例を見てみましょう。

東京大空襲などの戦災による消失

今後同じことが起きないことを祈るばかりですが、少なくとも太平洋戦争での本土攻撃により焼夷弾などで焼失してしまったケースが散見されます。
例えば東京23区に限定した話であれば、本所区(現・墨田区)・麹町区(現・千代田区)・赤坂区(現・港区)については壊滅的な損害を受け、ほぼ全てが焼失したと聞き及んでおります。この辺り、命を懸けて戸籍を守ろうと戦った涙ながらには語れない戸籍を管理していた職員の記録が残っているのですが、それはまたの機会にしたいと思います。
ちなみに原子爆弾が投下された広島市・長崎市についてはなんと「戸籍を疎開させていた」というのです。ですので、戦火があったから常にもう古い戸籍は現存していないんだ、とは思わないでください。実際に個別具体的に調査をしてみる必要があり一律にここで断定できる話ではないです。
例えば私のご先祖様の例で言うと、母方の祖母の系統の戸籍が空襲の被害を受けてほとんど残っていませんでした。残念でなりませんが、祖母の世代しか記録が現存しないので正直どうにもなりません。
しかし、同じ役所の管轄なのですが母方の祖父の系統の戸籍については幸いなことに空襲があったにも関わらず現存しておりました。
おかげで祖父の系統の方は江戸時代中期ほどまで遡ることに成功しております。
やはり、個別具体的に調査してみなければ一律に判断はできないと思います。

震災や火災による消失

これも今後同じことが起きないことを祈るばかりです。
平成23年(2011)3月11日に発生した東日本大震災で生じた震災が代表例でしょう。
すさまじい規模の津波でしたから、当然サーバーごと水没です。ただし、懸命なデータの復旧作業により無事にデータの再現はできた(平成23年4月26日法務省告知)ようです。
ちなみに紙の戸籍もどうやら無事だったようでした(最も津波被害の大きかった女川町役場にて弊社が調査、最古の明治19年式戸籍の取得が従前どおり可能。)。
ただ、地域的な火災の影響で紙の戸籍が焼失してしまったという別の実例も存在します。とある地域については(地名は伏せます)昭和9年に市街地に大火災が生じてしまい、それ以降でしか紙の戸籍が取得できない役所など実際に存在します。

行政機関の保存期間満了

ここまで読んでくださったみなさまに必ず覚えていって欲しい話です。
令和5年の執筆時現在の話として、役所は永久に戸籍を保管してくれるわけではありません。
戸籍には保存期間という制度があり戸籍法施行規則という法律に規定されています。
戸籍法施行規則では保存期間を「戸籍の除籍から80年間」と規定していました。

除籍とは?

除籍というのは「空になって使わない戸籍を特別なファイルに入れること」だという理解で十分です。「空」というのは例えば死亡・婚姻といった理由から1人1人とその戸籍から抜けていくことです。そうして当初戸籍に入っていた全員がいなくなって完全に「空」の状態になりその戸籍の役目は終了します。この役目を終えた状態になった戸籍を「除籍」と言います。

「除籍から80年」という保存期間の規定を受け、あとは各自治体の行政裁量になるのですが紙の戸籍を廃棄していった役所が実際に存在しています。
一概には言えませんが大都会の役所では破棄してしまった傾向が多いように思います。
要するに大都会では保管するスペースを永久に維持し続けるのも負担だったということでしょう。
施行規則という法律は法務大臣に権限がある省令になります(国家行政組織法第12条)。これを制定・運用し続けてしまった当時の法務大臣は本当に何を考えてしまったのか不思議でなりません。
確かに、紙の書類を大量に保管・管理をし続けることが行政サイドの多大な負担になるという事については一定の理解をすることができます。
しかしながら、先ほどから申し上げているように古い時代の戸籍というのはご自身の一族にとって歴史的価値のあるかけがえのない資料になります。祖先を辿る唯一の手段だと考えてもらっても何ら差し支えありません。
全ての戸籍が先祖代々緻密にリンクされ、誰がどこの誰と婚姻したのかだとか、いつ生まれていつ亡くなっただとか、戸籍が消失してしまったらそれらを調べる代替手段が存在しないと言っても過言ではありません。再度、声を大にしてお伝えしたいです。

ご先祖様にお会いできるチャンスが毎日、毎分、毎秒失われていっています。

家系図作成なんて今は良いかな・興味なんてないなと思っている方であっても、ご先祖様の戸籍の取得だけでもできることなら行って欲しいです。
役所の担当窓口の方は親身に話を聞いてくれるはずですから、時間と費用さえかければ必ず全ての戸籍をご自身で取得が可能なはずです。
それでも難しいようであるのなら弊社でも良いし別の会社でも良いし戸籍取得だけ依頼するのも一つの手です。
ただ、できることならご先祖様のルーツは他人の手を頼らずに、ご自身の手で探し出して欲しいというのが本音ではあります。
なお、「80年」という保存期間は平成22年6月1日に改正されました。
令和5年の現行法下における保存期間は「除籍の翌年から150年」となっております。

戸籍法施行規則
第五条 
 除籍簿の保存期間は、当該年度の翌年から百五十年とする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000010094

余談になりますが、これと全く同様のことが土地の登記簿にも生じてしまっています。
家系を辿るために最も有益なものが戸籍であることは間違いありませんが、登記簿もご先祖様の動向を探る文献として非常に貴重な一族の資料なのです。登記簿の有用性についてはまた別の機会に譲りたいと思いますが、不動産につき「閉鎖起算の土地50年、建物30年」とされてしまっており、戸籍に比べて極めて短いです。ただし、あくまで廃棄するか否かの判断は各役所の行政裁量によります。例えば私のご先祖様の土地は明治初期から全て廃棄されず残っており、今のところ全てを取得することができています。ただ、それも役所次第になるので一律には判断できません。
つまり、こちらもまた実際に個別具体的な調査を行わねば判明しないというのが実情です。

不動産登記規則
(保存期間)
第二十八条 次の各号に掲げる情報の保存期間は、当該各号に定めるとおりとする。
 土地に関する閉鎖登記記録 閉鎖した日から五十年間
 建物に関する閉鎖登記記録 閉鎖した日から三十年間

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417M60000010018

ところで「戸籍は150年」と聞くと「なんだ時間あるじゃん」と思うかもしれません。
しかし、例えば令和5年から明治19年式戸籍までさかのぼると137年ほどとなり、実はあまり時間はないのです。執筆時の令和5年の現時点で、早いものだと猶予期間は理論上13年ほどしか存在しないことになります。それではご自身の一族で家系図に興味を持ち、古い戸籍を取得しようなどと考える人間が次に現れるのはいつになるんでしょうか。もしもご自身の孫や曾孫が「一族の家系図を作りたい」と考えたとき、万が一戸籍が消失してしまっていると家系図の作成は事実上不可能となってしまいます。
くどいかもしれませんが、古い戸籍を取得するだけであればご自身で可能です。
土地の登記簿を遡って全て取得するには特殊な技術と知識が必要ですが、戸籍を遡って全て取得することについては全く知識がなくても可能だと私は思います。
もし時間とお金(戸籍の通数が多いので案外高額です。)に余裕があるのなら、ご先祖様の戸籍だけでも取得してみてはいかがでしょうか。

まとめ

  • 現行法下において戸籍や登記簿は永久に保存してくれる書類ではない。
  • 現実に廃棄されてしまい戸籍が消失した自治体も実際に存在する
  • ご自身で取得できるので、今は興味がなくても取得して欲しい。
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